ヘッドハンティングした取締役の解任。額田・井口法律事務所(ぬかだ・いぐち法律事務所)

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ヘッドハンティングした取締役の解任

LR23 2025.4.14

ヘッドハンティングした取締役の解任

  最近では、「プロ経営者」を自認する人々が現れ、取締役のヘッドハンティングも見られるようです。
 しかし、ヘッドハンティングした取締役が期待したような業績が上げられないとき、会社(支配株主)側は当該取締役を「解任」することができるでしょうか。

会社法の定めでは
①取締役は、いつでも株主総会の決議で解任することができる(339T)
②解任について「正当な理由」がない場合は、解任された取締役は会社に対し損害賠償を請求できる(339U)
とされています。
 すなわち、解任するのに理由は必要なく、株主総会の決議(※)だけで解任できるが、解任するだけの「正当な理由」がなければ、会社は損害賠償をしなければならない、という建付です。

(※)この決議は、普通決議でよいのが原則ですが、①累積投票で選任されている取締役、②監査等委員会設置会社の監査等委員である取締役を解任するには特別決議によることが必要(309U⑦)。

  「正当な理由」とは、一般的には、①法令・定款違反行為、②心身の故障、③職務への著しい不適任・経営能力の著しい欠如があげられます。④経営上の失敗については争いあるようです。もっとも、③、④は程度問題といえるでしょう。
 では、㋐会社と当該取締役との契約で数値目標を定め、不達成の場合は退任すると合意した場合、㋑会社が高い経営能力を期待して高額の報酬を予定し、「試用期間」を設定して試用期間中は解任できる旨を合意している場合はどうでしょうか?
 ㋐は、大幅な不達成の場合は当該合意も踏まえて「正当理由」ありとされます。㋑は、そのような合意は正当理由を根拠づける事由になり得るとする説と、上記の会社法の定めを確認しただけで正当理由の判断材料とはならないとする説と、両説あるようです(以上、判例タイムズ1496号6頁参照)。

  正当な理由がないのに解任された場合の「損害」と認められる可能性があるのは、解任されなければ得られたであろう、①残存任期中の報酬・賞与等と、②退職慰労金等です。
 報酬は、原則として解任時の金額が基準になります。
 賞与については、毎年業績に応じて株主総会で支給の有無・額が決定されている場合は決まった額が得られる蓋然性は高くないので「損害」に当たらないが、毎年定額の賞与を支給する総会決議が繰り返されている場合には「損害」と認められる可能性があります。
 退職慰労金も定款の定めか株主総会の決議があってはじめて具体的な権利となるので、定款の定め、株主総会の決議あるいは退職金を支給している慣行があり当該取締役にも支給される蓋然性が高い場合に限って「損害」と認められます。
 ③慰謝料や、④請求のための弁護士費用は、裁判例では「損害」と認められていません。 会社と当該取締役との契約で、予め㋐損害賠償額の合意をしていた場合、逆に㋑損害賠償を請求しない合意をしていた場合は、これらの合意の効力を認める立場と、裁判所は合意に拘束されず会社法の定めに従って損害の有無・額を判断するとする立場があり、通説的立場は形成されていないようです。

以上

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