法律情報
アパート・マンションのオーナーへ朗報
近時、アパート・マンションの賃貸借契約で更新料を支払う旨の特約(更新料条項)、敷金(または敷金の性質をもつ「保証金」)のうち一定額を賃貸人(家主)が取得し返還しない旨の特約(敷引特約)について、賃借人が消費者(個人で事業用の賃借でない場合)である場合には、そのような特約は消費者契約法に違反して無効であるとの主張がなされ、下級審の判決の中には−特に関西地区において−無効とするものが見られました(更新料条項につき大阪高裁平成22年2月24日判決、敷引特約につき大阪高裁平成21年12月15日判決等)。
そこで最高裁がどのような判断を下すか注目されていたところ、いずれも、原則として有効であるとの判断が示されました。オーナーにとっては朗報です。
1 更新料条項 【最高裁平成23年7月15日判決】
最高裁は、更新料条項が契約書に具体的金額(あるいは賃料の○か月分)と記載されている場合は、更新料の額が賃料の額、更新される期間に照らし高額すぎるなどの特段の事情がないかぎり有効であるとの判断を示し、具体的には、1年契約で賃料2か月分の更新料を支払う旨の条項を有効としました。
2 敷引特約 【最高裁平成23年3月24日判決】
賃貸人が取得する敷引額が契約書に明示されている場合は、敷引額が「通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無、及びその額が高額に過ぎると評価」される場合を除き、有効であるとの判断を示した。事案は、40万円の保証金で賃貸期間に応じて18万ないし34万円(家賃の約2〜3.5か月分)を敷引特約を有効としました。
その後も、最高裁平成23年7月12日判決で、敷金100万円のうち60万円(約3.5月分)の敷金引特約を有効としています。
3 通常損耗の補修費用の負担(通常損耗負担特約)
上記2との関係で、改めて確認しておくべきなのが、通常損耗についての補修費用を賃借人が負担するという特約に関する 最高裁平成17年12月16日判決です。
同判決は、通常損耗の原状回復費用は賃料に含まれる(敷金から控除できない)という理解を前提に、賃借人に通常損耗についての原状回復費用を負担させるためには、「賃借人が修繕費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約の条項自体に具体的に明記されているか、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要」とし、賃借人が負担する基準として「汚損(手垢の汚れ、タバコの煤けなど生活することによる変色を含む)・汚れ」などと契約書に記載してある場合でも「具体的に明記されているということはできない。」としました。
この判断を前提とすると、「通常損耗による補修費用もすべて賃借人が負担する。」と定めるほかないと思われます(もっとも、具体的な補修費用も記載することが求められる可能性あり)。
オーナーとしては
上記1に照らせば、現在、東京周辺で約定されている、契約期間1−2年で賃料の1−2か月分を支払うという更新料条項はなんら問題ないと考えてよいでしょう。
次に上記2と3の違いですが、結局、賃借人からみて「いくら支払うのか(敷金から引くのか)」が明確になっているか、が問題であり、金額ないし賃料の月数で契約書から明確に金額がわかるものであれば、非常識に高額でないかぎり、約定(特約)は有効と考えられます。「敷引」は東京・関東地区では一般的ではないようで、通常損耗負担特約とする場合には、通常損耗の補修費用も賃借人の負担とする旨の記載のほか「何」について「いくら」負担するのかはっきり合意(条項化)しておく必要があるでしょう(その意味では、通常損耗特約はけっこうやっかいで、むしろ敷引特約か、通常損耗の補修費は原則どおり賃料に織り込んでおくほうが簡明といえます)。
なお、「消費者契約法で無効ではないか」という問題は、あくまで賃借人が「消費者」である場合の話で、賃借人が法人や個人でも事業用に借りている場合には当てはまりません(契約書で合意したとおり)。もっとも通常損耗負担特約については、「通常損耗は賃料に織り込みずみ」という原則は法人や事業者にも当てはまる原則ですから、合理性のないものは効力が否定される可能性はあるでしょう。