競業避止,忠実義務等の法律情報です。額田・井口法律事務所(ぬかだ・いぐち法律事務所)

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■取締役・従業員の競業行為■

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取締役・従業員の競業行為

LR4 2012.5.1

会社の取締役や幹部従業員が独立して会社と同じ事業(競業行為)をして、会社の取引先を奪うということがあります。また、独立に伴い、顧客情報を持ち出したり従業員を引き抜くという事態も起こっています。このような場合に会社としては何らかの措置をとることができないのでしょうか。以下に概説します。

第1 競業行為自体について

1 取締役の場合
(1)在任中
 取締役は会社法の定めで競業避止義務があり、競業行為はできません(取締役会または株主総会の承認を得た場合はできる)。違反した場合は、損害賠償義務を負い、取締役解任の理由になります。
 競業禁止に触れるのは、取締役が個人で競業行為をし、あるいは競業行為をする他の会社の代表者になった場合が典型ですが、それに限らず、競業行為をする会社の実質的な支配者である場合も含まれます。
 新会社の設立の準備行為は競業行為にはなりませんが、取締役の善管注意義務違反、忠実義務違反になる可能性があります。部下に対する自己の事業への参加を勧誘する行為は、一般には忠実義務違反になると考えられますが、取締役退任の事情や取締役と当該部下との関係によっては(例えば、少数派取締役が排斥されて退任することになったが、その子飼いの部下も居場所がなくなるというような事情)忠実義務違反にはならない場合があり得ます。

(2)退任後
 会社法上の競業避止義務は、取締役退任後は及びません。
 では、会社と当該取締役が退任後も競業行為を行わないことを特約していた場合はどうでしょうか。そのような特約による制限も合理的な範囲内であれば有効とされています。合理的な範囲内かという判断は、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、会社の利益、元取締役の不利益、社会的な利害の視点に立って総合的に判断されます。
 違反に対しては、競業行為の差止め*、損害賠償請求ができます。更に退職慰労金の不支給や返還を特約していたら、原則として、その合意に従うことになります。

2 従業員の場合
(1)在職中
 取締役と異なり従業員の競業行為を禁じる法律の明文の規定はありませんが、従業員には使用者に対する誠実義務があるので、その一つの現れとして競業避止義務があると解されています(起業だけでなく、競業他社への就職も禁じられる)。
 違反した場合は、懲戒、解雇の対象となり得、損害賠償義務を生じます。ただし、懲戒、解雇をするには就業規則等でその旨の定めがあることが必要でしょう。

(2)退職後
 退職後は競業避止義務はありません。
 では、会社と従業員との個別の同意、あるいは就業規則で退職後も競業行為を禁じている場合はどうでしょうか。この場合も、合理的な制限であれば有効とされ、その判断基準としては、①競業制限の目的(使用者固有の知識・秘密の保護を目的としているか)②労働者の地位(使用者の正当な利益を尊重しなければならない職務・地位にあったか)、③競業制限範囲の妥当性(競業制限の期間、地域、職業の範囲が妥当か)、④代償の有無等を総合考慮して、制限の合理性があることが必要であると解されています(荒木尚志『労働法』241頁)。
 ただし、合意の場合はそれが従業員の自由意思に基づくものであるか十分吟味されなければならないという指摘があります。また、就業規則による場合はそれが使用者が一方的に定めるものであることから合意に比べ合理性判断はより厳格になされるべきであるとの指摘もあるので留意する必要があります。
 競業義務違反した場合は、競業行為の差止め*、損害賠償請求ができます。また、退職金支給規定に退職金の減額・不支給の定めがあるときに、減額・不支給とすることができる(支給済みの場合は返還請求できる)かが問題になりますが、従業員のそれまでの勤続の功を抹消してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限定されるというのが裁判例の傾向です。

  (*)競業行為の差止めには、競業禁止をする目的である会社の利益(例えば営業秘密の保護)が害される具体的なおそれのあることが必要であるとする考えもあります。


第2 顧客情報の持ち出し

1 不正競争防止法の規制
 顧客情報が不正競争防止法にいう「営業秘密」(秘密として管理されていること、非公知であること、事業活動に有用な技術上・営業上の情報であることを要する)に該当する場合は、取締役や従業員が会社から示された顧客情報を自らのために利用し、または第三者に提供することは不正競争にあたり、会社は差止め、損害賠償の請求をすることができます。これは、在任(在職)中、退任(退職)後を問いません。

2 不正競争防止法にいう「営業秘密」に当たらない場合
(1)取締役の場合
a 在任中
 不正競争防止法の「営業秘密」に当たらない場合でも顧客情報は会社にとって重要な情報ですから、取締役が会社から得た顧客情報を自己のために使用したり第三者に提供することは、忠実義務に違反し、取締役は会社に対し損害賠償義務を負います。

b 退任後
 退任後は忠実義務を負いません。しかし、会社との間で守秘義務に関して特約をしている場合は、在任中に得た顧客情報を退任後に利用することは、その特約に違反することになります。

(2)従業員の場合
a 在職中
 従業員には、労働契約の付随義務として秘密保持義務があります。したがって、会社から得た顧客情報を自己のために使用したり第三者に提供することは、秘密保持義務に違反し、懲戒、解雇、損害賠償の問題を生じます。もっとも、懲戒、解雇をするには就業規則にその旨の規定あることが必要でしょう。

b 退職後
 退職後は当然に秘密保持義務はありません。
 では、使用者と従業員との間の特約、あるいは就業規則で、退職後も秘密保持義務を定めている場合はどうでしょうか。そのような特約・就業規則は、その秘密の性質・範囲、価値、労働者の退職前の地位に照らし合理性が認められるときは有効とされています。


第3 従業員の引き抜き

1 取締役の場合
 取締役には忠実義務があるので、在任中に会社の従業員の引き抜き工作をすることは同義務に違反します(上記第1、1(1)参照)。
 退任後は忠実義務はありませんから、引き抜きは原則として許されることになりますが、社会的許容範囲を逸脱するような方法で引き抜きをしたら不法行為になります。

2 従業員の場合
 在職中、従業員は使用者に対し労働契約の付随義務として誠実義務を負います。もっとも、(引き抜かれる)従業員には本来職業選択の自由がありますから、引き抜きが社会的相当性を逸脱し、極めて背信的な方法で行われた場合に限り、債務不履行(誠実義務違反)ないし不法行為となると考えられます。
 退職後は、引き抜き行為は原則として自由です。ただし、営業秘密を持ち出させるなど引き抜きの態様が著しく悪質な場合には不法行為となる場合があり得ます。

以上

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