法律情報
ホントは怖い家族信託
最近、成年後見制度の代用として、さかんに「家族信託」(民事信託)が喧伝されています。しかし、「家族信託」には、思わぬ大きな落とし穴があります。
一番の問題点は、信託という制度が、財産の所有権を完全に受託者(信託財産の運用管理を任された人)へ移してしまう点です(*)。受託者は信託の趣旨に従って信託財産を管理・運用・処分しなければなりませんが、所有名義が自分にあることから、「自分の自由にしたい」(横領等)という誘惑が生じる恐れが常にありますし、はじめから財産を自己に取り込む積もりで高齢者に信託を設定させると極めて危険です(**)。
にも係わらず、信託では、成年後見制度(家庭裁判所、成年後見監督人、任意後見監督人等)のように受託者に対する常設の監督機関がありません。信託監督人、受益者代理人という制度はありますが、信託行為(契約・遺言)で決めておく必要があります(信託監督人は、裁判所が選任することもできますが、申立てをしないと選任されません)。
また、信託では、遺言のように自由に書き換えられない可能性があります。すなわち、信託は一定の場合変更できるのが原則ですが、信託行為で変更を禁止することもでき、変更禁止となると、相続の前哨戦として信託を持ちかけた者の“早い者勝ち”になりかねません。
そのほかにも、先例が少ないため法律の解釈が固まっていない点があったり、銀行が「信託口」の預金口座の設定に応じない場合がある、信託法・民法の理解と税法との間に齟齬があり思わぬ課税問題を生じるといった危険も指摘されています。
「家族信託」をしようとするときは、慎重のうえにも慎重な検討が必要です。
(*)例えば、親(委託者)の財産を子を受託者として信託すると、その財産の所有権は受託者である子に移転する。
(**)任意後見契約+遺言+信託の3点セット(さらには、生前の財産管理を加えた4点セット)の「仕組み」が形成されると、完全に、高齢者(親)の財産が取り込まれる危険があります。これらの3点(4点)セットの財産管理等を考える(他者から勧められたときは、特に!)ときはより一層慎重な検討が必要であると同時に、本人(高齢者)の利益を第一に考える専門職に相談することが肝要です。