相隣関係に関する変更。額田・井口法律事務所(ぬかだ・いぐち法律事務所)

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相隣関係に関する変更

LR17 2023.12.5

「所有者不明土地」問題に関する民法改正に伴い、相隣関係(そうりんかんけい。隣の土地との利用の調整等)についても改正がなされ、2023年4月1日から施行されています。

1 隣地使用権

改正前の民法では、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる」(旧209条1項本文)と定めていました。
 しかし、「使用を請求することができる」の具体的な内容がはっきりせず、「障壁又は建物の築造・修繕」以外の目的で隣地を使用できるかどうかも不明確でした。
 そこで、改正法は次のように規律を整備しました。

(1) 隣地使用の権利性

  土地所有者は『一定の目的』のために必要な範囲で、隣地を使用する権利を有する(209条1項本文)。

⇒使用を拒まれた場合、自力救済は認められないので、使用を妨害しないよう求める裁判を起こす必要がある(事案によるが、空き地で使用者がいない場合は裁判をしなくても立入が認められる場合もありうる)

  住家については、居住者の承諾が必要(同項ただし書)。

(2) 一定の目的

 *境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
*境界標の調査又は境界に関する測量
*越境した竹木の枝の切り取り

(3) 手続(隣地所有者等の保護)

 *隣地使用に際しては、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地所有者(所有者と居住者が異なるときは居住者にも)に通知しなければならない(同条3項)。
 ※あらかじめ、とは2週間程度が目安
 ※急迫な事情がある場合や隣地所有者が不明な場合は、使用を開始してから、あるいは判明してから遅滞なく通知すればよい

 *隣地使用に際しては、使用の日時、場所及び方法において隣地所有者・居住者にもっとも損害が少ないものを選ばなければならない(同条2項)。
*隣地所有者・居住者に損害を受けた場合は、賠償しなければならない(同条4項)。

2 ライフラインの設備の設置・使用権

旧法では、電気の引き込み線、ガス管、水道管、電話線、インターネット用光ファイバーとなど設備の引き込みのための隣地使用に関する規定がありませんでした。そこで、改正法は、次のように整備しました。

(1) 権利の明確化

① 設備設置権(他の土地にライフラインの設備を設置する権利) 他の土地に設備を設置しなければ、電気、ガスまたは水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない土地の所有者は、必要な範囲で、他の土地に設備を設置する権利を有することが明文で規定されました(213条の2第1項)。

 ※土地の分割・一部譲渡によって継続的給付を受けることができなくなった場合は、分割者・譲渡者の所有地のみに設置可能(213条の3)

② 設備使用権(他人が所有するライフラインの設備を使用する権利)の明確化 他人が所有する設備を使用しなければ、電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を引き込むことができない土地所有者は、必要な範囲で、他人の所有する設備を使用する権利を有することも明文で定められました(同項)。

③ 場所・方法の限定
 設備の設置、使用の場所・方法は、他の土地や他人の設備のために損害が最も少ないものにしなければなりません(213条の2第2項)。
  ※公道へ出るための隣地の通行権(210条)がある場合は、通常は、当該通路部分を利用する。

※設備設置権・使用権がある場合でも、その設置や使用を拒否された場合には、裁判所に対し妨害禁止の裁判を提起し、判決を得る必要がある(空き地で使用者もいなければ、事案によっては、裁判を経なくても適法に設備の設置や使用ができる場合もありうる)。

(2) 事前通知

  他の土地に設備を設置し、または他人の設備を使用する土地の所有者は、あらかじめ、その目的、場所、方法を他の土地・設備の所有者(設置の場合は土地の利用者にも)に通知する必要があります(213条の2第3項)。

 ※あらかじめ、とは2週間〜1か月程度が目処
※設備の利用については、使用者への通知は法律上要求されていないが、通知しておくのが望ましい。
※通知の相手方が特定できない、所在不明の場合でも、通知が必要(この点が隣地使用権と異なる。この場合は、『公示による意思表示』(98条)による)。

(3) 償金(損害賠償)・費用負担

 ア 設備の設置の場合
  土地の所有者は、次の損害が生じた場合、賠償しなければなりません。

① 設備設置工事のために一時的に土地を使用する際、当該土地の所有者・使用者に生じた損害(213条の2第4項、209条4項) ⇒一括払い
 ※設置のため、土地上の工作物・竹木を撤去したことによる損害等

② 設備の設置により土地が継続的に使用できなくなることによって他の土地に生じた損害(213条の2第5項) ⇒1年ごとの提起払いでよい
 ※土地の利用料相当額の損害
 ※土地の分割・一部譲渡に伴い分割者・譲渡者の所有地のみに設置しなければならない場合は、賠償する必要はない(213条の3第1項後段、第2項)

 イ 設備の使用の場合

① 土地の所有者は、設備の使用開始の際に損害が生じた時は、賠償する必要(213条の2第6項)⇒一括払い
 ※接続工事の際、一時的に使用できなくなったことによる損害等

② 土地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、設備の修繕・維持の費用を負担する必要(同条7項)

 

3 越境した竹木の枝の切り取り

旧法では、隣地から越境した竹木の『根』は、土地所有者が切り取ることができるとされていましたが(この点は、改正後も変更なし)、越境した『枝』については規定がなく、勝手に切ることはできないと解釈されていました。
 この点、改正法は、次のとおり、規定を整備しました。

① 越境された土地所有者は、隣地所有者に、枝を切除させることができる(233条1項)

② 越境された土地所有者は、次の場合、枝を自ら切り取ることができる(同条3項)
*竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告しても相当期間内に切除しないとき
  ※相当期間は「基本的に2週間程度」
*竹木の所有者を特定できず、または竹木所有者が所在不明のとき
*急迫の事情があるとき

※あくまで「枝」が対象で、「幹」は切れない。

以上

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