法律情報
相続の盲点
よく知っているように思える相続にも、ちょっとした盲点があります。
◇ 両親には“代襲相続”はない
本来の相続人が被相続人より先に亡くなっている場合、相続人の子らが代わって相続することができます。これを「代襲相続」といい、被相続人の子について孫、孫も先に亡くなっていればひ孫・・・と、どこまでも代襲が認められますが、きょうだい間の相続ではきょうだいの子(被相続人からみれば甥・姪)までで、その子の子孫までは認められません。
これに対して、被相続人の親については“代襲”はありません。
具体的に見ていきましょう。
A(妻)・B(夫)夫婦が離婚。子Cがいるとします。
この段階でAが亡くなると、Aの遺産はすべてCが相続します。Aの両親が健在でもAの両親には相続権はありません。
その後、Cが死亡したら、遺産(もとAの遺産+Cの固有財産)はすべてBへ行きます。
Aの両親が健在であっても、Aの代わりに受け継ぐことはありません(“代襲”はない)。
Bはタナボタの利益を得ることになりますが、それを回避するにはCが「Bにはやらない」(B以外の誰かに遺贈する等)という遺言をしておく必要があります(ただし、遺言ができるのは15歳以上)。もっとも、Bには遺留分があり、その行使を阻止する方法はありません。
上のケースとは少し異なりますが、A(妻)・B(夫)[婚姻中]、子Cがいて、Bが亡なった場合、Bの遺産はAとCが相続します。Bの両親が健在でもBの両親へは遺産はいかない、という問題もあります。それに不満を持ったBの両親がAを追い出すという紛争もまま見られます(Bが不慮の事故で死亡し、高額な損害賠償請求権を相続する場合などで起こりうる。もっとも法的にはBの両親には何の権利もないのですが)。
両親の老後が心配であれば、Bとしては一部を両親に遺贈する遺言をするなり、両親を受取人とする生命保険に入っておくことが考えられます。
◇ 罪深い “書かされ遺言”
あなた(被相続人)に子が2人〔A・B〕いる(相続人はその2人のみ)とします。そのうちの1人Aから遺言をするよう迫られ、根負けして、あるいは情にほだされて、気が進まぬまま「遺産は全部Aに相続させる」という遺言をしたらどうなるか?
あなたが亡くなれば立派に「有効な遺言」として通用し、遺産は全部Aが相続することになります。Bには遺留分があるものの遺留分を主張しても本来1/2だった相続分は1/4に減ることになり、当然Bは怒り心頭、恨み骨髄で、Aとは深刻な紛争となることは必定、子々孫々の代まで関係が断絶することになりかねません。
よく、“争続を避けるため”などと遺言が喧伝されますが、上の例で遺言をしていなければ、AとBで遺産分けの話(遺産分割協議)をするだけ。争いが起きたとしても、所詮、何をとるかという争いで、価値的には半分ずつであり、そこは動きません。それに対して上記のような遺言をしてしまうと、取り分自体の変動になるので、争いの深刻さは遺言がない場合の比ではありません。
遺言は、あくまでも“自分の意思”で、必要がある場合に、必要な範囲の適切な内容の遺言をする必要があります。
(その他、「困った遺言」の事例を 拙著『遺言書は死んでも書くな』(千倉書房) で紹介しています。ぜひ、ご一読ください。また、遺言についてご心配な場合は、お気軽にご相談ください)