法律情報
優越的地位の濫用
『優越的地位の濫用』
(括弧内で条数のみは独占禁止法の条数を指す)
新聞報道
公正取引委員会(公取)が、通販サイト大手に、「優越的地位の濫用」の疑いで立入調査に入ったとの報道がありました(11月27日朝刊各紙)。
報道によると、同通販サイトは、「カートボックス」(商品ごとに優先表示される出品者欄)への掲載を希望する出品者に対して、他の通販サイトより低い販売価格を提示することなどを要求していたという疑いのようです。
通販サイト自身は努力をせず、出品者に値下げさせることにより、他のサイトより優位に立とうとしたのではないか(すなわち、出品者の犠牲により不当にサイトが利益を得る)、という問題です。
優越的地位の濫用とは
①自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、②正常な商習慣に照らして不当に、③次のいずれかの行為をすることで(2条9項5号)、『不公正な取引方法』の一種として禁じられています(19条)。
イ 継続して取引する/取引しようとする相手方に対して、その取引対象の商品・役務(サービスや労務のこと)以外の商品・役務を買わせる
ロ 継続して取引する/取引しようとする相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させる
ハ 取引対象の商品の受領拒絶、返品、支払遅延、著しい減額、その他相手方に不利益になるような取引条件の設定、変更または取引の実行
この規制の本質は、強い地位に立つ者が取引相手方から『搾取』する行為の規制といえます(白石忠志)。
優越的地位とは、『B』にとって『A』と取引をする必要性があれば、『A』は『B』に対して優越的地位にあると考えられています。その判断について、公取は、①BのAに対する取引依存度、②Aの市場における地位、③Bにとっての取引先変更の可能性、④その他Aと取引することの必要性を示す具体的事実を総合評価する、と説明しています。
濫用(違反行為)の具体例
(イ)の類型では、銀行が融資の条件として取引先に必要のない金融商品を買わせること、ホテルが納入業者にディナーショーのチケットを強制的に割り当てて買わせること
(ロ)の類型では、大規模小売業者が費用を負担せずに納入業者に人員を派遣させること、協賛金を要求すること、リベート支払条件に到達していないのにリベートを要求すること
(ハ)の類型では、大規模小売業者が契約内容にないのに売れ残り商品を返品すること、テレビ局が契約内容にないのに下請制作会社に番組の著作権を無償で譲渡させること、メーカーが不具合の責任が自社にあるのに部品メーカーにクレーム対応を無償で行わせること、コンビニ本部が契約解除を示唆して加盟店に見切り販売(値引き販売)を断念させること、などです。
濫用がある場合の制裁等
(1) 公取が調査をした結果、優越的地位濫用(違反行為)と認めた場合の措置(※)として、次のものがあります。
①排除措置命令(20条) 違反行為の差止め、契約条項の削除、その他違反行為を排除するための必要な措置を命じる。
②課徴金納付命令(20条の6) 一種の罰金で、違反行為を行った期間(最長10年)における相手方との取引額の1%が課せられる。違反行為が一定期間継続していることが必要です。
(※)命令を受けた者が争う手段としては、公取を相手に東京地裁へ命令の取消しを求める裁判を起こす。
(2) 相手方は、独自に、違反行為者に対し、民事裁判を起こすこともできます。
①差止請求(24条) 違反行為により「著しい損害」を受け/受けるおそれがある場合は、侵害行為者に対し、侵害行使の停止等を求めることができます。
②損害賠償(民法709条) 違反行為は不法行為として損害賠償請求ができます。なお、排除措置命令、課徴金納付命令が確定したときは独禁法上特別な損害賠償請求が規定されており、この損害賠償では違反行為者は故意・過失がなかったとして責任を否定することができません(25条)。
“被害者”が執りうる手段
違反行為を受けた相手方としては、取引継続中は違反行為者(自己の取引先)に面と向かって苦情を言ったり、違反行為の停止を求めることは容易ではないでしょう。そのような場合、公取に相談をする方法もあります。公取は、事務総局、各地方事務所に相談窓口を設けており、相談を端緒として調査がなされることがあります。また、公取も排除命令まではしなくても警告や注意とすることもあるようです。
もちろん、意を決して、民事上の差止請求や損害賠償をすることも考慮に値します。