法律情報
著名人の写真等の利用にはご注意を
芸能人や運動選手などの著名人の氏名や肖像等(以下,「肖像等」といいます)を,無断で商業的に使用した場合,「パブリシティ権」の侵害として,無断使用者に使用の差止めや損害賠償を求めることができる,とする議論があり,従来も,地裁・高裁レベルの判決ではこれを認めるものがありました。最近,最高裁は,このパブリシティ権を正面から認める判決を出し,注目されます(平成24年2月2日判決・最高裁HP。新聞各紙でも報道されました)。
争われた事案自体は,週刊誌が有名歌手の“振り付け”を利用したダイエット法を紹介する記事で,その歌手の写真を無断で紙面に掲載したことに対し,歌手側がパブリシティ権の侵害であるとして,損害賠償を求めたものです。
判決の結論は,後で説明するように,「顧客吸引力」を目的とした使用ではない,として損害賠償請求を退けたのですが,最高裁として「パブリシティ権」を正面から認めたこと,「パブリシティ権」の侵害となる具体的な基準を示したことに意味があります。
同判決は,まず,パブリシティ権とは,「人の氏名,肖像等の顧客吸引力を排他的に利用する権利」であるとしたうえで,肖像等の無断使用が,「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」には,パブリシティ権を侵害する不法行為となるという基準を示しました。 そして,「専ら顧客吸引力の利用を目的とした使用」の例として,以下をあげています。
① 肖像等それ自体として独立して鑑賞の対象となる商品として使用する場合
② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品に付する場合
③ 肖像等を商品等の広告として使用する場合
①はブロマイド,写真集の販売など,②は商品パッケージに顔写真を載せる,Tシャツに顔写真をプリントするなどです。
他方で,同判決は,著名人は社会の耳目を集めることから,時事報道,論説,創作物等に使用されるケースでは,その使用を「正当な表現行為等」として受任すべき場合もある,ともしています。本件では,週刊誌の記事の内容と利用された写真の関係などに照らして,顧客吸引力の利用を目的としたものではないと結論づけています。
したがって,ブロマイドや写真集など著名人の「肖像」それ自体を商品とする場合は勿論,商品のパッケージや宣伝広告に著名人の氏名や写真を利用することは,本人の承諾がないとパブリシティ権の侵害として不法行為となりますが(損害賠償や商品の回収を命じられる可能性がある),歌やプレーを批評する記事で写真を掲載することは、承諾がなくても問題ないことになります。
なお,最高裁の考えでは,パブリシティ権は「人格権」に基づくものですから,競走馬には認められないことになります(最高裁平成16年2月13日判決)。逆に,著名人でない一般人については,報道等であっても写真(肖像)の無断掲載はプライバシーの侵害になる可能性もあります。