相続Q&A[改正法対応]
相続Q&A[改正法対応]一覧
Q1 相続で問題になるのは、どのような点ですか?
Q2 相続の対象になるのは?
Q3 相続の対象となる資産とは?
Q4 生命保険金の扱いは?
Q5 死亡退職金の扱いは?
Q6 「遺骨」は誰が「相続」するのか?
Q7 「負債」は相続するか?
Q8 相続人になるのは誰か?
Q9 遺言で他人を相続人にすることができるか?
Q10 相続放棄とは?
Q11 相続欠格とは?
Q12 廃除とは?
Q13 相続分とは?
Q14 法定相続分とは?
Q15 非嫡出子の法定相続分は?
Q16 異母・異父の兄弟姉妹間の相続における法定相続分は?
Q17 指定相続分とは?
Q18 遺言で一部の相続人についてのみの相続分の指定があるときは?
Q19 相続人のうちで、生前贈与を受けていたり、遺贈を受けた者がある場合は?
Q20 特別受益にあたるものは?
Q21 特別受益が認められる場合の相続分はどうなるか?
Q22 財産の増加あるいは維持に貢献した相続人がいる場合は?
Q23 寄与分と認められるのは?
Q24 いわゆる「嫁の寄与分」は認めらないのか?
Q25 寄与分が認められた場合の相続分は?
Q26 みなし相続財産とは?
Q27 具体的相続分とは?
Q28 遺産分割とは?
Q29 遺産分割はどのような手続で行うのか?
Q30 遺産分割は、相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)にしなければならないのか?
Q31 兄(姉)が遺産の全部を要求しているが、具体的相続分を超える割合の遺産を要求することができるのか?
Q32 遺産の「分け方」には、どのような方法があるのか?
Q33 遺産を分ける基準(目安)は?
Q34 遺産はすべて遺産分割手続で分けるのか?
Q35 遺産分割協議中に遺産である賃貸不動産からあがる賃料収入は、誰のものか?
Q36 遺留分とは?
Q37 遺留分侵害額請求とは?
Q38 具体的に、どのような場合に遺留分の侵害となり、いくら回復を求めることができるか?
Q39 遺留分侵害額請求は、いつまでにしなければいけないか?
Q40 遺留分侵害額請求は、具体的にどのような請求をするのか?
Q41 配偶者居住権とは?
Q42 配偶者短期居住権とは?
Q43 特別寄与料とは?
Q44 預金の仮払い制度とは?
Q45 法定相続分を超える遺産を取得したら?
はじめに
A 相続で問題になるのは、次のような点です。
① そもそも相続の対象になるのは何か(相続財産(Q2))
② 誰が、相続するのか(相続人(Q8))
③ どのような割合で、相続するのか(相続分(Q13))
④ 遺産はどのようにして分けるのか(遺産分割(Q28))
⑤ 遺言などで取り分が減った場合にどうするか(遺留分(Q36)と遺留分侵害額の請求(Q37))
相続財産
A 被相続人(亡くなった人)の有していた一切の財産です。
プラスの財産(積極財産。「資産」)だけではなく、借金・債務といったマイナスの財産(消極財産。「負債」)も含みます。すなわち、相続によって借金も引き継ぐことになります。プラスの財産だけをもらって借金は引き継がないというわけにはいきません。
A 被相続人の有していた一切の財産が対象になります。不動産、動産、現金、預金、有価証券、知的財産権、借地権など財産的価値がある物・権利はすべて含まれます。
ただし、扶養を求める権利、離婚による財産分与の請求権、生活保護の受給権などはその人限りに認められる権利(「一身専属権」)で、相続の対象にはなりません。
A 受取人の指定の仕方で異なります。
(1)受取人が特定の人に指定されている場合
相続の対象にならず、その受取人のものになります。
(*)保険料が被相続人の財産から支払われ、一部の相続人だけが高額な保険金を受っている場合は、特別受益とされることがあります。
⇒詳しくは弁護士にご相談ください。
(2)受取人が「法定相続人」と指定されている場合
相続の対象になり、法定相続人が法定相続分の割合で取得します。
ただし、(1)の場合でも保険料を被相続人が負担しているときは相続税の対象になります(一定金額は除かれる)。
A 死亡退職金は、就業規則(民間企業等の場合)や法令(公務員の場合)で受給権者が定められている場合は、その受給権者の固有の権利であり、相続の対象とはなりません。死亡退職金は、遺族の生活保証を目的とするものですから、通常は「特別受益」とは扱われません。
他方、相続税の課税対象にはなります(一定金額は除かれる)。
A 判例は、「祭祀の主宰者」に帰属するとしています。
A 被相続人が負っていた一切の負債が相続人に承継されます。
保証債務も承継します。ただし、身元保証人の地位は承継しません。また、根保証(卸と小売との間の取引にように継続する取引から生ずる一切の債務を保証するもの)については、相続人が承継する保証債務の範囲は、保証した被相続人が死亡した時点での債務残高に限定されます。
資産より負債のほうが多い場合は、通常は、相続放棄(Q10)をします。
⇒相続放棄の手続は、弁護士にご相談ください。
相続人
A 相続人になるのは次の人です。
第1 配偶者配偶者は常に相続人になる
第2 血 族次の順序で相続人になる(先の順位者がいない場合に限り、後の順位者が相続人になる)
① 子
子が親(被相続人)より先に死亡している場合において、孫がいるときは、その孫、孫も死んでいるときはひ孫・・・と、続く(代襲相続*)
② 直系尊属
まず、被相続人の親。両親とも死亡している場合は祖父母・・・と、順次遡る
③ 兄弟姉妹
兄弟姉妹のうち死亡している人がいる場合は、その子も相続権を持つ(代襲相続。兄弟姉妹の孫以下には相続権はない)
(*)相続人の代わりに、その子などが相続することを代襲相続といいます。
A Q8で説明した相続人以外の人を、遺言で相続人にすることはできません。
ただし、遺言で包括遺贈(→遺言Q&A)をすれば、実質的に遺言で相続人にしたのと同じ結果になります。
A 相続自体を拒否すること。相続放棄をするとはじめから相続人でなかったことになります。
相続放棄は、原則として、相続開始を知ってから3か月以内に、家庭裁判所に対し「申述」という手続をとらなければなりません。
⇒相続放棄の手続は、弁護士にご相談ください。
放棄をした場合は、放棄者の子なども代襲相続(Q8)は認められません。
なお、事実上、資産(プラスの財産)をもらわないことを「放棄」ということがありますが、法律上の相続放棄とは違います(借金を引き継ぐことになるので要注意)。
A 当然に相続権を失うこと。欠格となるのは
① 故意に被相続人や先順位・同順位の相続人を死に至らしめた場合
② 詐欺・強迫によって遺言させたり、遺言を取り消させたりした場合
③ 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合など
欠格となった相続人に子などがいれば、代襲相続(Q8)は認められます。
A 被相続人の意思で、特定の相続人の相続権を失わせること。
廃除の理由となるのは、①被相続人を虐待したり、②重大な侮辱を加えた場合です。
廃除の方法は、①被相続人が生前に家庭裁判所に廃除を請求するか、あるいは②遺言で廃除の意思を表明します(遺言による場合は、相続開始後に遺言執行者が家庭裁判所に廃除を請求する)。
廃除された場合でも代襲相続が認められます。
相続分
A 各相続人が相続する割合。資産も負債も同じ割合になる。
遺言で相続分を指定した場合はその割合(指定相続分(Q17))、遺言で相続分を指定していない場合は民法で定められた割合(法定相続分(Q14))。
A 相続人の組み合わせで、下表のように定められています。
相続人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者と子 | 配偶者 1/2 子 1/2 |
配偶者と直系尊属 | 配偶者 2/3 直系尊属 1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 3/4 兄弟姉妹 1/4 |
相続人が配偶者だけ、あるいは血族だけの場合は、100%になります。
同じグループの中では頭割りです。例えば、相続人が配偶者Aと子B・C・Dの場合、子の法定相続分はそれぞれ1/2×1/3=1/6 になります。
代襲相続の場合は、被代襲者の法定相続分を代襲者で頭割りします。例えば、上記例でBがすでに死亡していてBの子、E・Fがいる場合、もともとBの法定相続分は1/6ですから、E・Fの法定相続分は 1/6×1/2=1/12 になります。
A 平成13(2001)年7月以降に開始(被相続人が死亡)した相続については、嫡出子と同じです。
旧民法900条1項4号ただし書きは、非嫡出子(*)の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めていましたが、最高裁平成25年9月4日判決はこれを違憲としたため、民法改正により婚外子の相続分は嫡出子と同じと改められました。上記最高裁判決は、遅くとも平成13年7月には違憲になっていたと判断していますが、平成12年9月に開始した相続においては違憲ではないという最高裁判決もありますので、その間に開始した相続については、グレーゾーンとなっています。
(*)法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子。婚外子。
A 兄弟姉妹間の相続で、被相続人とは異母・異父の兄弟姉妹の相続分は、両親を共通にする兄弟姉妹の相続分の2分の1です。
例えば、被相続人がM、相続人はMと父母を共通にするN・O、父のみを共通にするP(例えば、後妻の子)である場合(Mに配偶者はいないとする)、Pの相続分は 1/(2+2+1)=1/5になります(N・Oは 2/5)。こちらのほうは半分だけ「血」を共通にするわけですから、ある意味合理性があり、憲法違反であるという議論はありません。
A 遺言で定めた相続割合。遺言では、法定相続分とは異なった定めをすることができます。
例えば、相続人が配偶者A、子B・C・Dの場合において、遺言で「Aの相続分を2/3、Bの相続分を1/6、C・Dの相続分を1/12ずつ」と定めることができます。
ただし、相続分の指定により他の相続人の遺留分を侵害する場合には、侵害された相続人は遺留分侵害額の請求(Q37)をすることができます。
Q18 遺言で一部の相続人についてのみの相続分の指定があるときは?
A 遺言で一部の相続人の相続分だけ指定し、他の相続人の相続分について何ら言及しなかったらどうなるか。上記の例(相続人が配偶者A、子B・C・Dの場合)で、Aの相続分を2/3と指定しただけで、B・C・Dについて指定しなかったら、B・C・Dの相続分は、Aに指定された残りを法定相続分の割合で配分したものになります(1/3×1/3=1/9)。
これに対し、上記の例で、「Bの相続分を1/3とする」とだけ指定した場合、①配偶者Aの相続分に影響はなく(1/2)、子の相続分のうちBが全体の1/3を取得し、C・Dは残りを等分する((1/2−1/3)×1/2=1/12)のか、②Aの相続分にも影響を与え、まずBが全体の1/3を取得し、残りの2/3をAとC・Dが法定相続分で分けるのか(Aは2/3×1/2=1/3、C・Dは2/3×1/2×1/2=1/6)解釈に争いがあります。このような遺言は争いを招くもとですから、相続分を指定するなら、疑義がないよう全相続人の相続分を指定するのが適切です。
Q19 相続人のうちで、生前贈与を受けていたり、遺贈を受けた者がある場合は?
A このような生前贈与や遺贈を特別受益(Q20)といい、その分を、相続時の遺産の取り分から控除します。
A 特別受益にあたるのは、次のものです。
① 遺贈
② 贈与
「婚姻・養子縁組のため」あるいは「生計の資本として」の贈与に限られます。典型的には、いわゆる「持参金」や「分家」・独立の際に与えられた不動産・金品などがこれにあたります。
A 特別受益にあたる遺贈・生前贈与がある場合には、遺産の額に特別受益分を加え(「みなし相続財産」)、その合計に法定相続分の割合を乗じます。特別受益を受けていない相続人については、その割合で遺産の配分を受けますが、特別受益を受けた相続人は、その割合から特別受益分を引いたものがその相続人の取り分(具体的相続分)になります。
【例】相続人が子A・B・C、遺産が1000万円で、Aが結婚の際に被相続人から200万円(☆)の贈与を受けていた場合
みなし相続財産
1000万+200万(☆)=1200万円
B・Cの具体的相続分
1200万×1/3=400万円
Aの具体的相続分
1200万×1/3−200万(☆)=200万円
このように特別受益分を分割対象の遺産に加えることを「持戻し」と呼んでいますが、遺言者(被相続人)が持戻しをしなくてよいという意思表示をしていた場合には、持戻しはされず、特別受益は考慮されないことになります。
⇒特別受益にあたるかどうか判断は簡単ではありません。弁護士にご相談ください。
Q22 財産の増加あるいは維持に貢献した相続人がいる場合は?
A 当該相続人は、貢献した分を、寄与分(Q23)として、遺産から「先取り」することができます。
A 寄与分と評価されるのは、次の方法で、被相続人の財産を「維持」または「増加」させた場合です。
① 相続人の事業に関し(a)労務を提供し、または(b)財産上の給付をした
② 被相続人の療養看護をした
③ その他の方法
①は、商店や工場、あるいは農家で経営主の被相続人を助けて働き、被相続人の財産を増やした場合です。
②は、単に介護をしたというだけでは足らず、他の相続人と比べて特別に大きな負担をした場合に認められ、通常は支出を免れた介護料を限度とします。
寄与分の額は相続人間の協議で決めますが、協議がまとまらなければ家庭裁判所の審判で決定されます
A 相続人の配偶者には寄与分は認められません。
そのために、これまでは、ある相続人の配偶者の貢献は当該相続人の寄与分として評価し、あとは当該相続人夫婦の間で清算する方法がとられていましたが、改正法により、特別寄与料(Q43)の制度が設けられました。
A 寄与分が認められた場合は、遺産からこの寄与分を「先取り」します。
【例】遺産は5000万円であるが、相続人である子A・B・Cのうち、Aが被相続人の事業を助け、その貢献により遺産が2000万円(☆)増加したと認められる場合
遺産のうちA・B・Cへの配分対象(みなし相続財産(Q26))
5000万−2000万(☆)=3000万円
B・Cの具体的相続分
3000万×1/3=1000万円
Aの具体的相続分
3000万×1/3+2000万(☆)=3000万円
⇒寄与分と認められるかどうか判断は簡単ではありません。弁護士にご相談ください。
A 特別受益がある場合に遺産に特別受益分を加えた合計、あるいは寄与分がある場合に遺産から寄与分の額を引いたもの(特別受益と寄与分の両方がある場合は、それぞれ加除したもの)が、相続分で配分する前提(配分対象)になります。このように算出された計算上の配分対象を「みなし相続財産」と呼びます。
A 実際の遺産分割の前提となる遺産の具体的な取得割合を具体的相続分といいます。その算出は、法定相続分または指定相続分をもととして、特別受益あるいは寄与分がある場合はこれを考慮してQ21、Q25の修正を施した割合です。
特別受益あるいは寄与分がなければ法定相続分または指定相続分がそのまま具体的相続分になります。
遺産分割
A 遺産に属する個々の財産の行き先を決めることを遺産分割といいます。
分割手続の対象となる財産は、分割時に現に存在する遺産です。ただし、相続人の一部が遺産である財産を処分してしまった場合は、処分者以外の相続人全員の同意があれば、処分された遺産も存在するものとして(処分者が先取りしたものとみなして)分割手続を進めることができます。
A 遺産の分割を決めるのは、まずは、相続人間の協議によります(遺産分割協議)。
協議がまとまらなければ、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停というのは家庭裁判所の調停委員会が間に入って相続人間の話し合いを調整し、まとめるものです。基本は相続人間の合意ですので、最終的に合意できなければ調停は成立しません。
調停でもまとまらなければ、家庭裁判所が「審判」という一種の裁判で決定します。
Q30 遺産分割は、相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)にしなければならないのか?
A 遺産分割に期限はありません。相続税の申告期限を過ぎても分割できます。相続税の申告期限までに遺産分割ができなければ、とりあえず、法定相続分に従って申告・納税をします。
Q31 兄(姉)が遺産の全部を要求しているが、具体的相続分を超える割合の遺産を要求することができるのか?
A 法律上の「権利」として認められるのは具体的相続分(Q27)であり、これを超えて遺産を「たくさんよこせ」と要求する権利はありません。ただ、相続分は権利ですから放棄することもできます。相続人のうち誰かが「そんなにいらない」と言えば、その分が他の相続人に上乗せされることになります。もっとも、これは、具体的相続分より少なくてよいという人がいて、その反面として具体的相続分より多くなる結果になっただけです。調停で調停委員が一部の相続人に「具体的相続分より少なくても我慢しなさい」と説得することはありませんし、まして審判になれば具体的相続分と異なる配分になることはありません。
「長男だから」、「長女だから」沢山よこせと言い張っても、話がこじれて長引くだけです。
A 遺産の「分け方」には、現物分割、代償分割、換価分割の3つがあります。
現物分割 『甲不動産は妻に、乙不動産は長男に、預金と株式は長女に』と、個々の遺産を、個別具体的に割り付けていく方法です。ひとつの土地を分筆することもあります。通常はこの現物分割によります。
代償分割 遺産の全部または一部をある相続人が取得し、具体的相続分を超えた部分を金銭などで他の相続人に渡し(代償)清算する方法。被相続人の事業(商店、工場、農家など)を承継するため遺産を分散させることができない場合は、この方法によります。
換価分割 遺産を売却して金銭に変えて配分します。遺産を現実に割り付けることができず、代償分割もできない場合の最後の手段です。
このほか、ある不動産を数名の相続人の共有にすることがあります。これも現物分割の一種ですが、将来、現実に分割する必要を生じることが多く、問題の先送りにすぎないので、お勧めしません。
上記の3つの方法を組み合わせることもあります。
A 民法906条は、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と定めています。この意味は、現実の割付をする際の基準、あるいは現物分割、代償分割、換価分割を選択する基準を示したものです。法定相続分が増減されるという意味ではありません。
例えば、相続人のうちある不動産に住んでいる相続人がいれば、その不動産はその相続人の取得になる可能性が高いといえます。
A 金銭債権や金銭債務は分割の対象になりません。「相続分に応じて」当然に各相続人に分割されます。
① 金銭債権 …遺産分割の対象にならず、「相続分に応じて」当然に各相続人に分割されます。もっとも、相続人が全員同意するなら、これらも遺産分割の対象とすることができ、不動産やその他の財産と合わせて配分(割付)をすることができます。遺産分割協議や調停では、これらを含めて話をまとめるのが一般的です。
なお、現金・預貯金は、当然に分割されるのではなく、遺産分割の対象になります。不動産等は均等に分けることが難しいので、現金・預貯金をうまく“調整材料“とすることが円滑な分割のポイントです。
② 金銭債務 …同様に「相続分に応じて」当然に分割されます。ここで「相続分に応じて」とは、具体的相続分の意味ではありません。具体的相続分はプラスの財産の配分について実質的な公平をはかる(プラスの財産を実質的に法定相続分あるいは指定相続分の割合にしようとする)制度ですから、債務のほうはそのまま法定相続分または指定相続分の割合にしなければ逆に不公平になります。相続分の指定がある場合は指定相続分の割合で、当然に分割されます。
ただ、指定相続分は債権者に主張することはできませんので、債権者が法定相続分で請求してきたら相続人は拒めません。指定相続分が法定相続分より少ないのに法定相続分で請求されて支払った相続人は指定相続分が法定相続分より多い相続人に差額を請求することになります(ただし、債権者が指定相続分に応じた債務の承継を承認したときは、法定相続分での請求はできない)。
また、相続人全員の合意で、法定相続分または指定相続分とは異なる負担割合を決めることはできますが、この割合も債権者には主張できず、法定相続分に従って請求を受けたら弁済せざるを得ません(弁済後に相続人間で清算する)。
Q35 遺産分割協議中に遺産である賃貸不動産からあがる賃料収入は、誰のものか?
A 分割協議中に遺産である不動産から生じる賃料は、各相続人が、その相続分に応じて、当然に分割されて取得します。ここでいう「相続分」とは法定相続分と考えられています。分割協議で当該不動産を取得する人のものになるわけではありません。
もっとも、全相続人が遺産分割協議の対象とすることに同意している場合には、分割協議の対象とすることができます。
遺留分と遺留分侵害額の請求
Q36 遺留分とは?
A 各相続人に、最低保障として保障されている遺産の取得割合です。
遺留分は、次のように定められています。兄弟姉妹には遺留分はありません。
相続人の範囲 | 遺留分割合 |
---|---|
直系尊属のみが相続人 | 3分の1 |
その他の場合 | 2分の1 |
上記の遺留分割合は遺産に対する総体として割合で、各相続人の遺留分はこれを法定相続分で分けます。例えば、相続人が配偶者と子ども2人であれば、配偶者の遺留分は1/4(1/2×1/2)、子の遺留分はそれぞれ1/8(1/2×1/2×1/2)となります。
A 特別受益(Q20)や相続分の指定(指定相続分(Q17))などによって自己の遺留分(Q36)を侵害された相続人が、その侵害の回復を求める請求です。
遺留分は権利であって、侵害があった場合でもこの侵害額請求をしなければ、確保できません。
Q38 具体的に、どのような場合に遺留分の侵害となり、いくら請求できるのか?
A 遺留分の侵害額は、次のようにして算出し、この侵害額を金銭で請求します。
・遺留分算定の基礎となる財産額(A)A=遺産(積極財産)+贈与(*1)−負債
・遺留分(額)(B)B=A×遺留分割合×法定相続分
・遺留分侵害額(X)X=B−遺留分権利者の特別受益(*2)−遺留分権利者が取得すべき遺産(*3)+遺留分権利者が承継する債務
(*1)遺留分の算定に含まれる贈与は、次のもの
① 相続開始前の1年間になされた贈与(相続人以外の者に対する贈与)
② 相続人が受けた特別受益で、相続開始前の10年間になされたもの
③ 当事者双方が遺留分権利者を害することを知ってした贈与(相続人、相続人以外ともに)
(*2)相続開始前10年間のものに限定されない
(*3)寄与分を考慮しない具体的相続分(法定相続分ではない)
※2019年7月1日より前に開始した相続では、金銭請求ではなく、侵害額に相当する割合を遺贈・贈与された物から現物(持分)で取り戻します(ただし、侵害者が金銭の弁償を申出たときは、金銭請求になる)。
⇒遺留分侵害の判断、侵害額の算出は容易ではありません(負債があったり、特別受益がある場合は、特に)。弁護士にご相談ください。
Q39 遺留分侵害額請求は、いつまでにしなければならないか?
A 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ってから1年以内、相続の開始から10年以内に行使しなければなりません。この期間内に、遺留分侵害額請求をする旨の通知をするか裁判を起こす必要があります(とりあえずこの期間内に通知をしておけば、裁判を起こすのはこの期間を経過した後でも構わない。 なお、この通知によって成立した遺留分侵害額請求権は通常の消滅時効にかかるので注意を要します)。
A 遺贈・贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭を請求します。
遺贈と贈与がある場合には遺贈を受けた者から、贈与については後になされた(相続開始時に近いほうから)贈与を受けた者から順に、その支払義務を負担します。遺贈が複数ある場合、同時に複数の贈与がなされた場合、遺贈相互間・贈与相互間では、遺贈・贈与の価格の割合によって分担します。
なお、裁判所は、受遺(贈)者の請求により、その支払につき一定の期限を与えることができます。
⇒誰に対して請求するべきかの判断は簡単ではありません(遺贈や贈与が複数ある場合は、特に)。弁護士にご相談ください。
2019年7月改正法関連
A 被相続人の配偶者が、相続開始時に被相続人が所有する建物(*)に住んでいた場合に、終身または一定の期間、その建物を無償で使用できる権利。
建物についての権利を「居住権の負担つきの所有権」と「配偶者居住権」とに分けることにより、配偶者の居住権を確保しつつ、柔軟な遺産分割ができるようにしたものです。
(*)配偶者以外の者との共有の場合は、設定できません。
例えば、相続人が妻と子一人、遺産が自宅(2000万円)と預貯金2000万円のケースで(妻と子の相続分額は、それぞれ2000万円)
改正前 …妻が自宅(2000万)を相続すると預貯金は相続できない(住居は確保できても生活費が不安)
改正後 …自宅所有権ではなく配偶者居住権を相続するものとし、その評価額が1000万円であれば、妻は配偶者居住権のほかに預貯金1000万円も相続できる
配偶者居住権は、①遺贈(遺言)、②死因贈与、③遺産分割協議、④審判(共同相続人間で配偶者居住権の設定につき合意があるとき、または裁判所が特に必要があると認めるとき)によって設定できます。
自宅(建物)の所有権を取得した者は、配偶者居住権の登記をする義務を負います。登記がなされないと、配偶者はこの権利を第三者へ主張することができません(*)。
(*)審判や調停では、所有者が登記する義務を負うことが明記されるのが通常で、明記されていれば、配偶者は、単独で登記をすることができます。
なお、この権利は第三者へ譲渡することはできません。第三者に賃貸等をするには所有者の承諾が必要です。
※この制度の適用は、2020年4月1日からです(遺贈、死因贈与による設定は、同日以降にするものから適用。遺産分割、審判による設定は同日以降に被相続人が死亡したケースに適用)。
A 配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していたときは、(その建物を相続しない、あるいは配偶者居住権が設定されない場合でも)相続開始後から一定期間無償で居住できます。居住できる期間は、次のとおり。
① 当該建物につき配偶者を含んで遺産分割がなされる場合 遺産分割で建物を誰が相続するか確定するまで(確定が相続開始後6か月より早いときは、相続開始後6か月が経過するまで)
② ①以外の場合(当該建物が遺贈等された場合)
建物所有者(受遺者、受益相続人等)が短期居住権の消滅申入れ(明渡しの申入れ)をしてから6か月を経過するまで
※この制度は、2020年4月1日以降に被相続人が死亡したケースに適用。
A 相続人でない親族が、無償で被相続人の介護等を行い、遺産の維持・増加に特別の貢献があった場合に、相続人に対しする金銭請求(特別寄与料)を認める制度です。
寄与分は相続人にしか認められないため、いわゆる「嫁の寄与」に報いるために新設されました。
寄与料の額は寄与者と相続人との協議で決めますが、協議で決まらないときは家庭裁判所の審判で決めます。ただし、審判は寄与者が相続開始と相続人を知った時から6か月以内、または相続開始から1年以内に申し立てる必要があります。
※この制度は、2019年7月1日以降に被相続人が死亡したケースに適用されます(同日より前の貢献に対しても評価される)。
A 預貯金は遺産分割の対象とされたため、遺産である預貯金の払戻しをするには、遺産分割手続が完了するか相続人全員の同意が必要になりました。その結果、葬儀費用や相続人の生活費等が必要な場合でも預貯金の払戻しできないという指摘がありました。
そこで、{一口座の預貯金の残高(相続開始時)×1/3×払戻をする相続人の法定相続分}の限度(ただし、一の金融機関では合計150万円を上限とする)で当該相続人単独で払戻しをすることが認められています(遺産の先取りと扱う)(*)。
(*)例えば、C銀行にある相続預金が普通預金300万円、定期預金900万円、相続人がAとB(法定相続分は各1/2)である場合、Bは普通預金から50万円、定期預金から150万円の限度で払戻をすることができるが、両者あわせて上限は150万円になる(例えば定期のみにするか、普通から50万円・定期から100万円にするかはBの判断)。
また、家庭裁判所の保全処分によって払戻し(預貯金の一部を仮に取得させる)が認められる制度がありますが、一般の保全処分に比べて要件が緩和されています。
A 登記等の対抗要件を具備しないと、第三者に、法定相続分を超える権利の取得を主張できません。
遺言(特定財産承継遺言(『相続させる遺言』)、指定相続分)あるいは遺産分割で法定相続分を超える遺産を取得した場合、不動産であれば登記を、債権であれば債務者へ通知するか債務者から承諾(債務者以外の第三者に対する関係では、通知・承諾は確定日付ある書面によることが必要)を得ないと、その権利の取得を第三者へ主張することはできません。
登記は、特定財産承継遺言による取得の場合は、当該財産を取得した相続人(遺言執行者がいるときは遺言執行者も)が単独で登記申請をすることができます。遺産分割による場合は、当該財産を取得した相続人と他の相続人との共同申請によりますが、審判・調停では、その中で登記に関する条項が明記されるのが通常で、明記されている場合は取得した相続人が単独で登記申請をすることができます。
債権の取得の通知は、他の相続人または遺言執行者からの通知ほか、取得した相続人が、遺言書・遺産分割協議書(調停調書・審判書)を示して通知する方法でもよいこととされました。
相続人はA・B(法定相続分は各1/2)で、「甲土地はAに相続させる」という特定財産承継遺言がある場合において、Aが甲土地につき相続登記(所有権移転登記)をする前にBの債権者が(代位によってA・Bへの相続登記をしたうえで)Bの法定相続分(持分1/2)を差押えると、差押えは有効となる(差押え前にAが登記をすると、Aは甲土地全部を確定的に取得でき、差押えは無効)。
【例2】 預金の場合相続人はA・B(法定相続分は各1/2)で、「乙銀行の預金はすべてAに相続させる」という特定財産承継遺言がある場合において、Aが遺言を示して同預金を取得した旨の通知を乙銀行へする前に、Bが預金の仮払(Q44)を受けたときは、その預金の支払は有効(Aは乙銀行からは仮払後の残りの預金しか受け取れない。もっとも、Bへ払戻した分の返還を求めることはできる)。
※特定財産承継遺言、相続分の指定について対抗要件を必要とするのは、2019年7月1日以降に開始した相続について(遺産分割による取得は、相続法改正前も対抗要件を必要とされていた)。
なお、遺贈による取得についても、第三者に主張するには、登記や債務者への通知等が必要です(登記は、相続人全員(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)と受遺者の共同申請。債務者への通知は、相続人全員(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)からする。受遺者からの遺言書を示しての方式は認められません(なお、債務者との関係では債務者が承認すればよいので、受遺者が債務者に遺言書を示して承認してもらうことも考えられる)。