相続法改正Q&A
相続法改正Q&A一覧
Q1 今回の改正の主要な点は?
Q2 配偶者居住権とは?
Q3 配偶者短期居住権とは?
Q4 その他、配偶者の居住確保に有利な改正はあるか?
Q5 自筆証書遺言の作成要件の緩和について
Q6 自筆証書遺言の保管制度とは?
Q7 特別寄与料とは?
Q8 遺留分減殺請求の改正について
Q9 遺産分割前に処分された遺産について
Q10 預金の仮払制度とは?
Q11 改正法の施行時期について
A 主要な改正点は、以下のとおりです。
① 配偶者居住権の創設など、配偶者の居住の保護を強化
② 自筆証書遺言の要件緩和と自筆証書遺言の保管制度の創設
③ 被相続人の介護等に貢献した相続人でない親族の金銭請求権(特別寄与料)を創設
④ 遺留分減殺請求の効果を現物の取戻しから金銭請求に変更
なお、そのほかにも、遺産分割前に処分された遺産も遺産分割の対象に含むことができるとしたこと、遺産分割前の預貯金の仮払い制度、法定相続分を超える遺産の取得を第三者に主張するには対抗要件 (登記等) を必要とすること、遺言執行者の権限の明確化など、実務的・理論的に重要な改正点があります。
A 被相続人の配偶者が、相続開始時に被相続人が所有する建物(※)に住んでいた場合に、終身または一定の期間、その建物を無償で使用できる権利。
改正法は、このような権利を創設することにより、建物についての権利を「居住権の負担つきの所有権」と「配偶者居住権」とに分け、配偶者の居住権を確保しつつ、柔軟な遺産分割ができるようにしたものです。
(※)配偶者以外の者との共有の場合は、設定できません。
例えば、相続人が妻と子一人、遺産が自宅(2000万円)と預貯金2000万円のケースで(妻と子の相続分額は、それぞれ2000万円)
改正前 …妻が自宅(2000万)を相続すると預貯金は相続できない(住居は確保できても生活費が不安)
改正後 …自宅所有権ではなく配偶者居住権を相続するものとしたら、その評価額が1000万円であれば、妻は預貯金1000万円も相続できる。
この配偶者居住権は、①遺贈(遺言)、②死因贈与、③遺産分割協議、④審判(共同相続人間で配偶者居住権の設定につき合意があるとき、または裁判所が特に必要があると認めるとき)によって設定できます。
自宅(建物)の所有権を取得した者は、配偶者居住権の登記をする義務を負います。
A 配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していたときは、(その建物を相続しあるいは配偶者居住権が設定されない場合でも)相続開始後から一定期間無償で居住できます。居住できる期間は、次のとおり。
① 当該建物につき遺産分割がなされる場合
遺産分割で建物を誰が相続するか確定するまで(それが相続開始後6か月より早いときは、相続開始後6か月が経過するまで)
② 当該建物が遺贈された場合
建物所有者(受遺者)が短期居住権の消滅申入れ(明渡しの申入れ)をしてから6か月を経過するまで
Q4 そのほか、配偶者の居住の確保に有利な改正はありますか?
A 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方に居住用の建物・敷地を遺贈・贈与したときは、持戻し免除の意思表示(→相続Q&A)をしたものと推定されます。
これは、配偶者居住権の遺贈・死因贈与についても準用されます。
A 自筆証書遺言は、遺産目録等を含めて、遺言全部を手書きしなければならないとされていましたが、今回の改正で、遺産目録の部分は自筆でなくてもよい(パソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書を添付するなど)こととされました。
ただし、自筆によらない目録は各ページに署名・押印しなければなりません。
A 自筆証書遺言を法務局で保管する制度が創設されました。
ただし、保管してもらえる遺言は、法務省令で定める様式で作成する必要があり、封をしない状態で法務局に預けます。
保管を引き受ける法務局は指定された法務局に限られ、そのうち住所地・本籍地・遺言者が所有する不動産所在地のいずれかを管轄する法務局に保管を依頼します。遺言者は法務局に出頭する必要があり、本人確認がなされます。
相続人は、遺言者の死亡後、遺言の写しの交付や閲覧を求めることができ、相続人のうちの一人に写しの交付・閲覧がなれたら、他の相続人に遺言が保管されていることが通知されます。
なお、法務局に保管されていた自筆証書遺言については、検認(→相続Q&A)の手続は必要ありません。
A 相続人でない親族が、被相続人の介護等を行い、遺産の維持・増加に特別の貢献があった場合は、相続人に対し貢献に応じた金銭(特別寄与料)を請求できる制度が創設されました。
これまで、例えば、長男の妻が義父母の介護等を行っても相続人ではないため長男の寄与分(→相続Q&A)と評価されることはあっても(後は長男夫婦の間で清算)、介護を行った長男の妻自身の権利とは認められなかったところから、貢献に対する直接の権利として認めたものです。
寄与料の額は寄与者と相続人との協議で決めますが、協議で決まらないときは家庭裁判所の審判で決めます。ただし、審判は寄与者が相続開始と相続人を知った時から6か月以内、または相続開始から1年以内に申し立てる必要があります。
A ①遺留分算定の基礎のなる財産の範囲について、相続人に対する特別受益は10年以内のものに限定され、②減殺請求の効果が現物返還から金銭請求に変更されました。
⑴ 遺留分算定の基礎となる財産額について、現行法では、相続人に対する特別受益に該当する贈与は特に期間の制限はなくすべて算入されるものと扱われていましたが、改正法では、相続開始前の10年間になされた特別受益に限定されました。ただし、被相続人・特別受益を受ける相続人の双方ともが、他の相続人を害する結果になることを知って実行した場合は、10年より前のものでも算入されます。
⑵ 遺留分減殺請求(→相続Q&A)をした場合の効果は、現行法では、減殺の対象の不動産等のうち侵害額に相当する持分が当然に減殺請求者に移転するものとし、減殺請求を受けた受遺者等が金銭による弁償を申し出た場合に限り、金銭で清算されるものとされていました。
改正法は、これを最初から金銭請求を求める権利と改めたものです("現物返還"から金銭弁償に変更)。
なお、裁判所は受遺者等の申立てにより、上記請求額の支払期限につき猶予を与えることができるとされました。
A 現行法下での家庭裁判所の実務では、遺産分割の対象は、現に存在している財産に限るとしているので、相続人の一人(処分者)が預貯金等を下ろして使ってしまった場合、その預貯金は遺産分割ではカウントされませんでした。このような場合、理屈のうえでは、他の相続人は処分者に対し不法行為あるいは不当利得として、自己の法定相続分の範囲で返還を請求できますが、別に裁判を起こさなければならず面倒ですし、処分者に特別受益がある場合には不公平な結果になると指摘されていました。
改正法では、処分者以外の相続人全員の同意があれば、処分者が下ろした預貯金も遺産とみなして遺産分割の対象とすることができる(処分者が先取りしたとみなす)ものとされました。この結果処分者の特別受益も考慮に入れることができ、処分者が取り過ぎていれば他の相続人へ代償金を支払わせることができます。
A 最高裁大法廷平成28年12月19日判決によって、預貯金は遺産分割の対象とされたため(それまでの家裁実務では、相続分によって当然に分割され遺産分割の対象にならないとの扱いでした)、遺産である預貯金の払戻しをするには、遺産分割手続が完了するか相続人全員の同意が必要になりました。その結果、葬儀費用や相続人の生活費等が必要な場合でも預貯金の払戻しできないという指摘がありました。
改正法では、{一口座の預貯金の残高(相続開始時)の1/3×払戻をする相続人の法定相続分}の限度(ただし、法務省令で定める金額を上限とする)で当該相続人単独で払戻しをすることができるようになりました(遺産の先取りと扱う)。
また、家庭裁判所の保全処分によって払戻し(預貯金の一部を仮に取得させる)が認められる制度がありますが、一般の保全処分に比べて要件が緩和されました。
A 2019年7月1日から施行されます。
ただし、以下の例外があります。
自筆証書遺言の作成要件の緩和
2019年1月13日
自筆証書遺言の保管制度
2020年7月10日
配偶者居住権及び配偶者短期居住権の制度
2020年4月1日