民法(債権法)改正Q&A。額田・井口法律事務所(ぬかだ・いぐち法律事務所)

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■民法(債権法)改正Q&A■

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民法(債権法)改正Q&A


民法(債権法)改正Q&A一覧

Q1  市民生活に影響がある改正ポイントは?

Q2  消滅時効に関する見直しの内容は?

Q3  時効の「中断」についての変更は?

Q4  法定利率に関する見直しの内容は?

Q5  保証に関する見直しの内容は?

Q6  根保証の極度額の定めとは?

Q7  公証人による保証人への意思確認が必要な場合は?

Q8  主債務者の情報提供義務とは?

Q9  債権者の情報提供義務とは?

Q10 新設された約款に関する規程の内容は?

Q11 定型約款とは?

Q12 どのような場合に定型約款が個々の契約の内容になるのか(組入要件)?

Q13 定型約款は事業者側で一方的に変更できるか?

Q14 「定型約款」に該当するものは、改正法施行(2020年4月1日)前に締結されたものであっても、改正法が適用されるか?

Q15 債権者代位権の実質的な改正点は?

Q16 詐害行為取消権の改正点は?

Q17 詐害行為取消権を行使した場合の効果は?

Q18 債務不履行における過失責任の原則に変更があると聞きますが?

Q19 契約の成立についての変更点等は?

Q20 契約の解除についての変更点は?

Q21 契約した時点で、目的物が消滅していたら?

Q22 買った商品に「欠陥」があったら?

Q23 債権譲渡に関する変更点は?

Q24 消費貸借の変更点は?

Q25 賃貸借についての変更点は?

Q26 オーナーチェンジの場合は?

Q27 請負の変更点は?

Q28 請負における瑕疵担保責任は?

Q29 小売商店です。改正の影響は?

Q30 アパートのオーナーです。留意点は?

Q31 工務店の店主です。改正の影響は?

Q32 雇用関係における変更点は?

Q33 クレジットカードの規約がカード会社によって一方的に変更された


概要

Q1 市民生活に影響がある改正ポイントは?

A 市民生活に影響がある実質的な改正点のうち、主要なものは以下の点です。

① 消滅時効に関する見直し

② 法定利率に関する見直し

③ 保証に関する見直し

④ 約款に関する規定の新設

消滅時効

Q2 消滅時効に関する見直しの内容は?

A 表1のように細かく分かれていた時効期間を、表2のように統一しました(166条1項、167条、724条、724条の2)。

表1      旧法
起算点 時効期間 具体例
原則 権利を行使できる時から 10年 個人間の貸金など
職業別 権利を行使できる時から 1年 飲食代、宿泊代、運送賃等
2年 弁護士の報酬
小売・卸売の売掛金等
3年 医師・助産師の診療報酬等
商事 権利を行使できる時から 5年 商行為によって生じた債権
一方が会社である場合の債権
不法行為 損害・加害者を知った時から 3年 交通事故など
不法行為を知った時から 20年

表2      改正法
起算点 時効期間 (例外)
原則 権利を行使できることを知った時から 5年  
権利を行使できる時から 10年 ※生命・身体の侵害による損害賠償
請求権については20年
不法行為 損害・加害者を知った時から 3年 ※生命・身体の侵害による損害賠償
請求権については5年
不法行為の時(=権利を行使できる時)から 20年  

  例えば、個人間の貸借であれば、時効期間は10年から5年に短縮され、飲食店のつけは1年から5年に延長されます。生命・身体に侵害による損害賠償請求権は、債務不履行(安全配慮義務違反など)と構成しても不法行為と構成しても5年または20年になります。
 判決で確定した権利は、一律に10年です(169条。変更なし)。

Q3 時効の「中断」についての変更は?

A 従来「中断」とされていたものが、時効の「完成猶予」(ペンディング)と「更新」(リセット)に整理し直されましたが、実質的な意味において変更はありません。

法定利率

Q4 法定利率に関する見直しの内容は?

A 年5%から、年3%を基準として、3年ごとに見直しがなされることになりました(404条)。
 法定利率とは、利息を払う合意だけをしたが利率を合意していないとき、金銭債務の支払期限を過ぎた場合の遅延損害金の率を定めていなかったとき(419条1項)などに適用されるものです。
 また、不法行為に基づく損害賠償請求権には、不法行為(事故)の時から当然に法定利率による遅延損害金を請求できます。他方、将来現実化する損害(後遺症による逸失利益や将来における介護費用など)を現時点で一括して請求する場合には「中間利息」が控除されますが、その際の利率としても用いられるため(417条の2)、5%から3%に変更されると現時点での手取り額が増えることになります。

保証

Q5 保証に関する見直しの内容は?

A 個人である保証人の保護が図られ、以下の点などの改正がなされました。

① 個人が保証人となるすべての根保証契約について、極度額を定めなければならない

② 事業用融資の第三者保証については、公証人があらかじめ保証人本人から直接、その保証意思を確認しなければならない

③ 事業上の債務の保証を個人に委託する場合、主債務者は保証人に必要な情報を提供しなければならない

④ 主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は個人保証人に、その旨を通知しなければならない

⑤ 債権者は、主債務者から頼まれてなった保証人から請求があっとときは、主債務についての情報(不履行の有無、残額等)を提供しなければならない

保証に関する規制
項目 条文 保証人 主債務者 主債務 規制の内容(要件・効果等)
保証契約の締結 446U 個人・法人 書面によらなければならない
包括根保証の禁止
[貸金等債務あり]
465の2,4 個人 貸金等を含む 極度額の定め必要 元本確定期日原則3年(最長5年) 元本確定事由:破産・死亡など
包括根保証の禁止
[貸金等債務なし]
465の3,4 個人 貸金等を含まず 極度額の定め必要 元本確定期日制限なし 元本確定事由:破産・死亡など(主債務者の破産等を除く)
事業用融資における第三者保証の制限 465の6〜 個人 事業者 貸金等を含む 保証契約締結の1か月内に、公正証書で保証意思を確認しなければならない
保証契約締結時の情報提供義務 465の10 個人 事業者 事業上の債務 事業用の債務の保証、根保証を委託する場合は、主債務者は、財産・収支の状況等の情報を提供しなければならない
主債務者が期限の利益を喪失した場合の債権者の通知義務 458の3 個人 主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その喪失を知った時から2か月以内に、その旨を通知しなければならない
主債務の履行状況に関する債権者の情報提供義務 458の2 個人・法人 保証人が請求したときは、債権者は、主債務(元本・利息・損害金)の履行状況等につき情報を手卿しなければならない
         ※空欄は、特に限定はないという趣旨

Q6 根保証の極度額の定めとは?

A 個人が根保証の保証人になる場合は、必ず、極度額(保証人の責任限度額)を定めなければならないとされました。
 根保証とは、特定の債務だけでなく将来発生する不特定の債務を包括的に保証するもので、例えば、継続的な事業用融資や商取引に関する保証が典型ですが、いわゆる身元保証や、賃借人の債務の保証(家賃保証)も根保証に含まれます。
 改正法は、個人が根保証の保証人になるときは「極度額」を定めなければならず(極度額の定めは書面または電磁的記録でしなければならない)、極度額の定めがない根保証は無効とされました(465条の2第2項)。
 なお、主債務に貸金等が含まれる場合は、保証契約をした日から3年を経過するとその時点での元本額で保証人の責任範囲が確定します(465条の3第2項)(*)。この期限は、合意で定めることもできますが、5年を超える期間を定めることはできません(同条第2項。なお、変更日から5年以内なら延長できる[同条第3項])。

*)保証人は、この時点での元本、およびこれに対する利息・損害金、その他の損害賠償の合計につき(465条2第1項)、極度額を限度として、保証履行の義務を負うことになる。

Q7 公証人による保証人への意思確認が必要な場合は?

A 事業用融資につき、第三者(*)である個人が保証(根保証を含む)する場合には、保証契約を締結する前1か月以内に、公証人による保証意思の確認を受けなければなりません(保証意思を公正証書にする)。この手続がなされていないと、保証は無効です(465条の6)。

*)次の人は「第三者」に該当せず、本条の適用はない(公証人による確認は不要)。

① 主債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役等

② 主債務者が法人である場合の議決権の過半数を有する者等

③ 主債務者が個人事業者である場合の、共同事業者、主債務者の配偶者で当該事業に現に従事している者

Q8 主債務者の情報提供義務とは?

A 個人に対して、事業上の債務の保証(貸金債務の保証に限らない。また、根保証を含む)を委託する場合には、主債務者は、保証人になろうとする者に、次の情報を提供しなければなりません(465条の10第1項、3項)。

① 主債務者の財産及び収支の状況

② 主債務(保証対象債務)以外の債務の有無、その額、その債務の履行状況

③ 主債務に担保がある場合(これから担保を出す場合を含む)はその内容

 ㋐主債務者が情報提供を怠り、あるいは誤った情報を提供したため、㋑保証人が主債務者の財産状況等につき誤認した結果、保証し、㋒債権者が㋐の点を知り、又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができます(同条第2項)。

Q9 債権者の情報提供義務とは?

A ⑴主債務者が期限の利益を喪失したとき、⑵保証人から履行状況の照会を受けたときは、債権者は所定の情報を提供しなければなりません。

⑴ 主債務者が期限の利益を喪失した場合の債権者の通知義務(458の3)
 保証人が個人である場合の保証一般において、主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その喪失を知った時から2か月以内に、その事実を通知しなければなりません。
 2か月以内に通知をしなかったときは、債権者は、期限の利益喪失時から現に通知をするまでの間に生じた遅延損害金は、保証人へ請求できません。

⑵ 主債務の履行状況に関する債権者の情報提供義務(458の2)
 債務者から頼まれて保証人になった者(法人を含む)が請求したときは、債権者は次の情報を提供しなければなりません

① 主債務の元本・利息・損害金・その他の債務についての不履行の有無

② ①の残額

③ ②のうち、弁済期が到来しているものの額

約款

Q10 新設された約款に関する規定の内容は?

A 消費者との大量取引を行うために事業者が準備した契約内容を約款(定型約款)といいますが、改正法は、①定型約款の定義、②定型約款が個々の契約の内容となるための要件(組入要件)、③定型約款の変更の要件を定めています。

Q11 定型約款とは?

A 民法(改正法)は、定型約款とは、

① ある特定の者(事業者)が不特定多数の者を相手方(顧客)とする取引(相手方の個性を重視せず多数の取引を行うものを指す。)で、

② 内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なもの(①②を満たすものを「定型取引」と定義)において

③ 契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体をいうものとしています(以上、548条の2第1項頭書き)。

 ※該当例 鉄道・バスの運送約款、電気・ガス等の供給約款、保険約款等、預金規定(約款)

 ※該当しない 事業者間の取引で一方が用意した契約書のひな型、就業規則等

Q12 どのような場合に定型約款が個々の契約の内容になるのか(組入要件)?

A 次のいずれかの場合は、定型約款の条項の内容を相手方(顧客)が認識していなくても合意したものとみなし、契約内容となります。

① 定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合

② 取引に際して、定型約款を契約内容とする旨を予め顧客に表示していた場合

 ※「表示」…約款自体のほか、「約款が契約内容に組み入れられる旨」も必要。
※「表示」といえるためには、顧客に対して個別に示されていると評価できるものでなければならない。ホームページで一般的に公表されているだけでは足りず、インターネット取引であれば契約締結画面までの間に画面上で認識可能な状態に置くことが必要である、とされています。

  なお、相手方の利益を一方的に害する条項であって信義則に反するものは、合意したとはみなされません(同条第2項)。
 また、契約前または契約締結後相当期間内に、顧客から要求があったときは、事業者は遅滞なく相当な方法で、定型約款の内容を示さなければなりません(548条の3第1項。ただし、既に書面や電磁的記録(CD・DVDなど)で提供している場合は不要)
→提供しなかったときは、定型約款は契約内容になりません(同条第2項)。

Q13 定型約款は事業者側で一方的に変更できるか?

A 次のいずれかの場合は、事業者が定型約款を一方的に変更することにより、契約内容を変更することができます(548条の4第1項)。

① 変更が相手方の一般の利益に適合する場合

② (a)変更が契約の目的に反せず、かつ、(b)変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更がある旨の定めの有無及びその内容、その他の変更に係る事情、に照らして合理的な場合

  事業者は、変更後の内容、その効力発生時期をインターネット等で周知しなければならないとされており、変更の効力発生時期までに周知をしないときは変更の効力は生じません(同条第3項)。

 

Q14 「定型約款」に該当するものは、改正法施行(2020年4月1日)前に締結されたものであっても、改正法が適用されるか?

A 適用されます。ただし、当事者の一方が施行日前に反対の意思を表明したときは、新法は適用されません(→約款の拘束力や一方的変更の可否は従前の解釈論のまま)。なお、解除権がある者は反対の意思を表明できません(新法の適用がイヤなら解除すればよいので)。
 なお、旧法下で生じた効力はそのまま維持されます(以上、附則33)。

そのほかの改正点

Q15 債権者代位権の実質的な改正点は?

A 代位権を行使されても、債務者(当該債権の債権者)は権利を行使できることとされました(423条の5第1文)。
 債務者が他に十分な財産がないのに自己の権利を行使しない場合には、当該債務者の債権者が当該債務者の有する権利を代わって行使することができます(債権者代位権。例えば、債務者が唯一の売掛金を回収しようしないとき、債権者はその売掛金の債務者(第三者債務者)に請求できる。423条1項)(*)。

*)債権者は受領したものを債務者へ返還しなければなりませんが、この返還義務と債務者の対する債権を相殺することが認められており、事実上優先回収が可能でした。

  債権者が代位権を行使した場合、旧法下では、債権者その旨を債務者に通知するか債務者が知ったときは債務者は当該権利を行使できない(上記例では売掛金を回収できない)と解釈されていましたが(判例・通説)、改正法では、債権者が代位しても債務者はなおその権利を行使できるとされ(売掛金を回収できる)、第三債務者も債務者に弁済してもよいことが明記されました(423条の5)。この結果、債権者と債務者は「早い者勝ち」になります。なお、債権者は第三債務者へ請求する訴訟を提起したときは、債務者に訴訟告知をしなければならないとされました(423条の6)。

Q16 詐害行為取消権の改正点は?

A 債務者が唯一の財産を不当に処分するなど債権者を害する行為をした場合には債権者はそれを取消すことができます。
 この詐害行為取消権については、次の点などが改正されました。

① 成立要件を詐害行為の類型毎に整理し明確にした

② 取消権の行使方法を明確化するとともに、債権者の請求を認容した判決の効力は債務者にも及ぶことを明確化した

③ 財産処分行為が取り消された場合、受益者(債務者から財産を譲り受けた者等)は債務者へ交付した反対給付の返還を求めることができるとした

④ 取消権の2年の短期の行使期間の起算点を明確にし、長期の制限期間を10年に短縮したほか、行使期間を出訴期間とした

Q17 詐害行為取消権を行使した場合の効果は?

A 改正法は、取り消された場合の返還方法や受益者の立場を明確にしています。

1 返還方法

  受益者等に対し現物の返還を求めるのが原則ですが、現物返還が困難であるときはその価格の償還を請求します(424条の6第1、2項)。ただし、取消の対象となる行為の目的が可分であるときは、債権者は自己の債権の額の限度で取消し、返還等を求めることができます(424条の8第1、2項)。
 なお、金銭の支払い又は動産の引渡しを求める場合は、債権者は自己へ引き渡すよう求めることができ、受益者等は債権者に引き渡したときは債務者に引き渡す義務を免れます(424条の9)。
 債権者が受益者等に対して起こした裁判で請求を認容した(詐害行為を認めた)判決は債務者にもその効力が及ぶこととされました(425条)。なお、債権者は訴訟を起こしたときは債務者に訴訟告知をしなければなりません(424条の7第2項)。

2 受益者の立場

  債務者の処分行為が取り消され、受益者等が目的物を返還した場合、受益者等がその目的物を取得するために出捐した反対給付の返還を債務者に求めることができます(425条の2。例えば、自動車を不相当に安く買った場合、自動車を返還したら、その支払った代金の返還を求めることができる)。

Q18 債務不履行における過失責任の原則に変更があると聞きますが?

A 実質的な変更はありません。
 旧法下では、債務不履行責任を負うのは債務者に「帰責事由」がある場合に限り、「帰責事由」とは過失の意味だとされていましたが(旧415条後段参照)、改正法では「帰責事由」とは「債務不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の通念に照らして」不適合である場合とされました(415条)。しかし、旧法下でも、裁判実務では帰責事由の有無は「債務不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の通念に照らして」判断されていたとの指摘があり、実質的な変更はないものと考えられます。
 もっとも、改正法では、契約解除については「帰責事由」は不要になりましたので(→Q20)、この点は、損害賠償請求だけに関する問題となりました(債務不履行がある場合、損害賠償請求をするには債務者に「帰責事由」があることが必要だが、契約を解除するには不要)。

Q19 契約の成立についての変更点等は?

A 隔地者間の承諾について発信主義を採用し、対話者間での申込の撤回等について明記されました。
 契約は両当事者の申込と承諾により成立します。
 申込と承諾は面談・電話による場合(対話者間)と、それ以外の場合(郵便、メール等。隔地者間)があります。
 隔地者間における契約の成立は、旧法下では承諾を発信したときとされていましたが、改正法では承諾が相手方に到達したときと改められました。
 対話者間の場合、対話継続中は(承諾がなされるまで)申込の撤回が可能で(525条2項)、対話継続中に承諾がなければ申込の効力は消滅するものとされました(同条3項)

Q20 契約の解除についての変更点は?

A 債務者に「帰責事由」がなくても契約を解除することができるようになりました。
 債務が履行されない場合には相手方(債権者)は契約を解除することができますが、旧法下では、契約を解除するには、債務者に帰責事由があることが必要だとされていました。
 改正法では、契約内容に適合した履行がなされない場合は、それが債務者の帰責事由によるものであるか否かに関わらず、契約を解除することができるようになりました(541条、542条)。
 ただし、不履行が「軽微」であるとき(541条ただし書き)、債権者に帰責事由がある場合(543条)は、解除することができません。

Q21 契約した時点で、目的物が消滅していたら?

A 旧法では、契約時に目的物が消滅していたら(原始的不能)、契約は無効であり、したがって買主がなんらかの損害を蒙っても債務不履行による損害賠償は請求することができないと考えられていました。
 改正法では、原始的不能というだけでは契約は無効とはならず(*)、損害賠償請求をすることができる余地があることを認めています(412条の2第2項)。

*)もっとも、契約当事者が、原始的不能の場合は契約は無効ないし成立しないと合意している場合(契約がそのように解釈される場合)は、無効ないし不成立となりますし、錯誤(95条)により取り消される場合もあるでしょう(その場合は債務不履行による損害賠償請求は認めらません。

Q22 買った商品に「欠陥」があったら?

A 買った商品に「欠陥」(契約の内容に適合しないキズや不備)がある場合、売主の帰責事由の有無によって、①損害賠償請求、②契約の解除、③追完(補修や欠陥のない代替物の交付)請求、④代金減額請求ができます(562条〜564条)。
 なお、③と④では、買主は原則としてまず③の追完請求をするべきで、追完が不可能な場合、売主が追完に応じない場合などに、④の代金減額請求ができます(563条)。
 また、買主は「欠陥」を知ったときから1年以内に売主へ「欠陥」の事実を通知しないと、①〜④の権利を行使することはできません(566条)。

買主の救済方法 買主に帰責事由 双方に帰責重なし 売主に帰責事由
損害賠償 × ×
契約の解除 ×
追完請求 ×
代金減額請求 ×

Q23 債権譲渡に関する変更点は?

A 債権は原則として譲渡可能とされました。
 旧法下では、債権は譲渡可能であるものの、譲渡禁止の特約が存する場合は譲渡は無効となり、譲受人が禁止特約の存在を知らず、かつ知らないことに重過失がないときに限って譲渡は有効とされていました。
 これに対して改正法では、譲渡禁止特約がある場合でも譲渡自体は有効で(466条2項)、譲受人が譲渡禁止特約の存在を知り、または知らなかったことにつき重過失がある場合は、債務者は譲受人への弁済を拒絶し、譲渡人へ弁済することもできることとされました(債務者の判断で譲受人へ弁済してもよい。466条3項)。ただし、譲受人が債務者に対し譲渡人へ弁済するよう催告しても弁済しないときは、債務者は譲受人への弁済を拒めなくなります(同条4項)。
 なお、預貯金債権については、従前通り、譲渡禁止特約につき悪意・重過失の譲受人との関係では譲渡は無効とされています(466条の5第1項)。

Q24 消費貸借の変更点は?

A 金銭等の目的物の交付を成立要件としない消費貸借が認められました。
 旧法のもとでは、「借りる・返す」という合意のほか目的物(金銭等)の交付がないと、消費貸借契約は成立しないとものとされていました。
 改正法では、書面で合意することを要件として、合意だけで成立する消費貸借契約(「諾成的消費貸借契約」)を認めました(587条の2第1項)。この諾成的消費貸借契約では、借主は貸主に金銭を交付するよう要求することができます(貸主には「貸す」義務がある)。借主は目的物(金銭等)を受領するまではいつでも契約を解除することができます(借主には「借りる」義務はない。同条2項第1文)。ただし、解除により貸主に損害を生じた場合は、借主はその損害を賠償しなければなりません(*)(同項第2文)。

*)消費者ローンなどの小口・多数の融資では、解除による「損害」の発生は考えられません。

Q25 賃貸借についての変更点は?

A ①敷金、②原状回復の範囲等、③賃貸中に目的物が譲渡された場合の法律関係について明確な定めが置かれました。
 ①では、敷金を「賃料債権等を担保する目的で賃借人が賃貸人へ交付する金銭」と定義し(名目のいかんを問わない)、その返還時期については「賃貸借が終了して目的物を返還したとき」あるいは「賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき」とし、返還範囲は「受領した敷金額から賃料等の未払債務を控除した残額(*)」と明定されました(622条の2第1項)。

*)金額が契約時において明確であれば、いわゆる「償却」の合意も有効。

  ②については、賃借人は目的物を原状に回復して(借りたときの状態に戻す)返還しなければなりませんが、通常損耗(通常の使用収益による損耗)や経年変化については、賃借人は責任を負わないことが明定されました(**)(621条)。

**)金額が明確であれば、クリ−ニング代負担なのどの特約が否定されるわけではありません。

Q26 オーナーチェンジの場合は?

A 不動産の貸し主が目的不動産を第三者に譲渡した場合、借り主が対抗要件(借地の場合は借地権の登記か、地上建物の登記。借家の場合は借家権の登記か、建物の引渡し)を備えていれば、借り主は新所有者に対し借地権・借家権を主張することができ、貸し主の地位は当然に譲受人に移転します(以上については、605条の2第1項で明定されました)。
 もっとも、賃貸マンションやテナントビルでは、目的建物が譲渡された後も、譲渡人Aと譲受人Bとの合意で譲渡人が引き続き貸し主の地位にとどまることがあります(譲受人が譲渡人に賃貸し、もとの賃借人Cは転借人になる)。このような形態をとるには個別にもとの賃借人Cの同意を得なければなりませんが(同意がないときは賃貸人の地位は譲受人Bへ移り譲受人Bと賃借人Cの単純な賃貸借になる)、改正法では、譲受人Bと譲渡人Aの合意のみで譲渡人に賃貸人の地位を留保する(転貸関係になる)ことができるようになりました(同条2項第1文)。もっとも、譲受人Bと譲渡人Aとの間の賃貸借契約が終了したときは、譲受人Bと賃借人Cとの賃貸借関係に移行します(同項第2文)。

Q27 請負の変更点は?

A 請負に関しては、①中途で解約された場合等の報酬請求権を明示、②請負人の瑕疵担保責任を整理、③解除権の制限を撤廃しています。
 ①については、請負代金は工事が完成して受領できるものですが、㋐仕事を完成することができなくなった場合、あるいは、㋑請負が仕事の完成前に解除された場合において、中途の結果のうち可分な部分によって注文者が利益を受けるときは、請負人はその利益の割合によって報酬を請求できることが明定されました(634条)。

Q28 請負における瑕疵担保責任は?

A 売買と同様に、「瑕疵」という言葉を「契約の内容に適合しないこと」を意味するものとし、完成した目的物に「契約の内容に適合しない」点があるときは、注文者は、①補修等の追完の請求、②損害賠償請求、③契約の解除、④代金の減額請求ができるものとされました(④について新設。636条)。
 なお、③契約の解除は、旧法では建物などの「土地の工作物」については解除できないとされていましたが、この制限が撤廃されています。
 上記①〜④の責任追及は、旧法では目的物の引渡から1年以内、建物等の建築請負では引渡から5年以内(石造・金属造等の場合は10年以内)とされていましたが、改正法では一律に「契約に適合しないこと」を知ってから1年以内に、その旨の通知が必要(不適合点を通知するだけでよく、具体的に損害賠償等をする必要はない)とされ、建物等の例外は廃止されました(637条)。

各業態別の留意点

Q29 小売商店です。改正の影響は?

A ①消滅時効と、②瑕疵担保責任の影響が考えられますが、②については実質的には大きな影響はないでしょう。

1 消滅時効

  小売・卸売商の売掛代金の消滅時効は2年とされていましたが、これが5年に延長されました。この点は、有利な変更です。

2 瑕疵担保責任

  商品に「瑕疵」(改正法では、契約内容に不適合な点)がある場合の売主の責任については、旧法では、買主に①損害賠償請求と②契約解除だけ認めていましたが、新法では、これらに加えて③追完請求権(補修、代替物の交付)、④代金減額請求権も認めました。この点は買主の保護に厚くなってしますが、従前も、実際上は交渉などによって③、④の措置も執られており、実質的な影響は少ないと思われます。
 他方、行使期間については、旧法では瑕疵を発見してから1年以内に「権利行使」をしなければならないとされていましたが、改正法では同期間内に瑕疵の存在を「通知」すればよいとされ、その分買主に手厚く(売主の責任期間は長く)なっています。

Q30 アパートのオーナーです。留意点は?

A 保証人をとる場合には、極度額(保証人の責任限度額)を定める必要があります。
 賃貸借については、Q25で説明したように、①敷金、②原状回復の内容、③目的物を譲渡した場合の法律関係について明定されましたが、③のうち賃貸人の地位の留保以外の点は、従来の判例理論などを条文化したもので、実質的な影響はありません。
 留意したいのは、賃借人に保証人をとる場合です。賃料その他の賃借人の債務の保証を目的とする保証は根保証に当たるので、極度額(保証人の責任限度額)を定める必要があり、定めがない場合は保証は無効とされます(→Q6)。極度額の定め方は、立法担当者の説明によると、「賃料の○か月分を限度」というだけではダメで、同一書面に賃料額を記載するなどして、一見して、限度額が具体的にわかるように規定さなければならないとされています(*)。

*)「解約時の賃料の○か月分」では、契約時の賃料額が記載されていても、具体的な限度額は不明なので、極度額の定めとしては無効の可能性が高いと言えます。

Q31 工務店の店主です。改正の影響は?

A Q27で述べたとおり、工事が中途で終了した場合に請負代金を出来高で請求できるかについて明確ではありませんでしたが、これを請求できることが明かにされました。この点は、はっきりしたメリットです。
 次に工事に「瑕疵」があった場合、注文主に代金の減額請求が認められました。この点は、従来、話合いで減額を合意していたことが注文者の権利とされました。また、建物などの土地の工作物について、従来認められていなかった瑕疵による契約解除も認められましたが、これは請負人には不利な変更です。
 瑕疵担保責任の追及時間の点は、「契約に適合しないことを知ってから」1年以内にその旨を通知しなければならない(通知しないと、請負人の責任は免除)とされた点は、期間が一律1年になり建物等については期間が短くなりましたが、「知ってから」と始期が各ケースで異なることにされたので、具体的ケースによっては、責任期間が伸びることにもなります。

Q32 雇用関係における変更点は?

A ①中途退職時の賞与(ボーナス)請求と、②身元保証に注意をする必要があります。
 ①の点は、雇用が中途で終了したときも、被用者(従業員)はすでに履行した割合に応じて報酬を請求できることになりました(624条の2第2号)。そのため、賞与が給与の後払い的性格が強いと判断される場合には、賞与支給の基準日(在籍要件の基準日)前に退職したときでも、割合的に賞与を請求できる可能性が出てきました。
 次に②の点は、いわゆる身元保証は「根保証」に当たると考えられるところ、根保証 は極度額(保証人の責任限度額)を定めておかないと無効とされたので、身元保証契約でこの極度額を定めておく必要があります。「給与の○か月分」という定め方では契約時に金額が特定せず、極度額の定めとしては無効とされる可能性が高いので、具体的な金額として合意しておくのが望ましいと言えます。

Q33 クレジットカードの規約がカード会社によって一方的に変更された

A クレジットカード等の規約は定型約款にあたると考えられます。定型約款が顧客とカード会社との間の個別の契約の内容となるためには、①定型約款(規約)を契約の内容とする旨の合意があったこと、②カード契約に際して定型約款を契約の内容とする旨を予め表示していたこと、のいずれかが必要ですが(548条の2第1項)、通常は、事前にカード会社から「規約」が交付され(②の充足)、契約書にも「規約の承認のうえ加入する」旨の文言がありますので(①の充足)、この要件を満たすことになります。
 定型約款の変更は、個別に顧客の承認を得なくても、㋐「変更が相手方の利益に適合する場合」、または㋑「変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無・内容、その他の変更に係る事情に照らして合理的な場合」のいずれかに当たれば、定型約款の内容を変更できます(約款が変更されれば、個々の契約もそのように変更される)(548条の4第1項)。
 以上の規定は、改正法施行前から加入しているカードについても適用されます(附則33条1項)(*)。

*)顧客が改正法施行(2020年4月1日)までに反対の意思を表明すれば改正法は適用されませんが、顧客が解約権を持っている場合には反対は認められません(通常、顧客には解約権がありますので、改正法が適用されることになる。以上、附則33条2,3項)。

  したがって、規約の変更に不服がある場合は、上記の㋐、㋑の要件を満たしていることを争うか、カード契約を解約するほかないでしょう。

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