借地、借家の法的問題についてのQ&Aです。額田・井口法律事務所(ぬかだ・いぐち法律事務所)

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■借地借家Q&A■

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借地借家Q&A


借地借家Q&A一覧

Q1  借地契約の更新

Q2  正当事由

Q3  立退料

Q4  更新料(借地)

Q5  借地権の譲渡

Q6  建替え

Q7  抵当権設定承諾書

Q8  定期借地権

Q9  事業用借地権

Q10 家賃保証(一括借上げ)

Q11 賃料増減額請求権

Q12 自動改訂条項

Q13 更新料(借家)

Q14 クリーニング代

Q15 敷金・保証金の一部償却(敷引き特約)

Q16 定期借家権


借 地

Q1 借地契約の更新

借地契約の更新とは? どのような場合に更新になりますか?

A 借地期間が満了しても、更新がなされると、さらに一定期間借地権が継続します。
 更新には、借地権設定者(地主)と借地権者(借地人)との合意による場合(合意更新)と、法律上当然に更新が認められる場合(法定更新)があります。
 更新後の借地期間、法定更新の要件については、借地借家法の施行(平成4年8月1日)後に設定された借地権については借地借家法が、それより前から存在する借地権については旧借地権が適用になります。
 更新後の借地期間は合意更新でも法定更新でも同じです。旧借地法では借地上に建築する建物の種類によって期間が異なり、普通建物(木造、軽量鉄骨造など)は20年、堅固建物(鉄筋コンクリート造など)は30年とされています。

法定更新①(請求) 法定更新②(使用継続) 更新後の借地期間
借地借家法 借地権者の請求
建物の存在
使用の継続
建物の存在
最初の更新は20年
その後の更新は10年
旧借地法 借地権者人の請求
建物の存在
使用の継続 普通建物20年
堅固建物30年

 借地権者からの更新請求、使用継続に対して賃貸人が異議を述べれば、更新を阻止できますが、異議を述べるには「正当事由」(Q2)が必要です(この点については、借地借家法も旧借地法も同じ)。

Q2 正当事由

正当事由とは何ですか? 正当事由を判断する要素は?

A 借地権者からの更新請求、使用継続に異議を述べるために必要な事由です。
 借地権設定者が自ら使用する必要がある場合が典型ですが、借地権設定者・借地権者の土地使用の必要性、借地に関する従前の経過、土地の利用状況、立退料の提供の有無・額などを総合的に評価して判定されます。
 正当事由があると判断されたときは、借地権者は建物を除去して借地を明け渡さなければならないことになりますが、建物を時価で買い取ることを地主に請求することができます(建物買取請求権)。

Q3 立退料

立退料とは? 立退料を払えば借地権者に出ていってもらえるのですか?

A 立退料は正当事由を補完するものです。正当事由を基礎づける事情がある程度はあるが(例えば80%)、まだ完全ではない場合、残りの部分(20%)を立退料として支払うことで埋めあわせするものです。立退料だけで立ち退きを求めることはできません(借地権の買取という問題になり、売る・売らないは借地権者の自由ということになります)。

Q4 更新料

更新にあたり更新料を請求できますか?

A 更新料を払うとの法律の規定も慣習もないので、更新料は当然には請求できません。更新の際、借地権設定者と借地権者とで「更新料∗円を支払う。」と合意した場合は有効で、賃貸人はこの合意に基づき更新料を請求できます。
 更新時に「次回の更新時には更新料として∗円を支払う。」と約束しても、効力は認められません。

Q5 借地権の譲渡

借地を使う必要がなくなりました。地主に返すほかないのですか?

A 都市部では借地権も売買の対象になっており、そのような地域では地上建物と借地権を第三者へ売却することが考えられます。借地権には地上権と賃借権があり、地上権は自由に譲渡できますが、賃借権を譲渡するには借地権設定者(賃貸人)の承諾が必要です。承諾を得ずに譲渡したら、借地契約を解除されてしまいます。
 賃借権の譲渡に地主が同意しない場合には、裁判所に借地権設定者の承諾に代わる譲渡の許可を求めることができます。裁判所は、譲渡しても設定者に不利でないと判断した場合は譲渡を許可します。譲受人が暴力団や資力がない者などでない限り、通常は許可されます。また、許可にあたり、借地権者に対し借地権設定者へ承諾料を支払いうよう命じるが一般的です。なお、この譲渡許可の手続においては借地権設定者が優先して自己へ譲渡するよう求めることができ、設定者がこの権利を行使した場合は、裁判所が譲渡代金を決定します。

Q6 建替え

借地人ですが、建物が古くなったので建替えたいと思います。建替え後の借地権はどうなりますか?

A 現在の借地借家法の施行(平成4年8月1日)前からある借地権と、施行後に設定された借地権で異なります。

» 借地借家法施行前からある借地権
 建替え自体は、増改築禁止特約がないかぎり、借地権者が自由にできます。借地権設定者が建替えに遅滞なく異議を述べなかったら、借地期間は旧建物を取り壊した日から30年(新建物が鉄筋コンクリート造りなどの堅固建物の場合)または20年(新建物が木造などの普通建物の場合)延長されます。借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、借地期間は従前のままで、設定者が異議を述べたことは次の更新の際の正当事由(Q2)の判断要素の1つになります。
 増改築禁止特約がある場合は、借地権設定者の承諾がない限り建替え自体ができないことになりますが、設定者が承諾しない場合は、借地権者は裁判所に対し承諾に代わる許可を求めることができます(通常、裁判所は、借地権者に承諾料の支払いを命じ、新建物のために借地条件を変更したり借地期間を延長したりします)。

» 借地借家法施行後に設定された借地権
 借地借家法は、建替えについては積極的に借地権設定者の承諾を求めるべきとし、他方で当初の借地期間(30年)内での建替えか、更新後の建替えかで区別しています。
 当初の契約期間内での建替えは、借地権設定者の承諾があるときは(借地権者が建替える旨を通知して2か月内に異議を述べなかったときは承諾したものとみなす)、借地期間は、承諾の日または新築の日の早いほうから20年延長されます。借地権設定者の承諾がない場合は、借地期間は従来のままです。なお、増改築禁止特約があるときは、そもそも建替え自体に設定者の同意が必要であり、同意がないときは裁判所へ同意に代わる許可を求めることができます。
 これに対し、更新がなされた後の建替えの場合は、借地権設定者の承諾があるときは借地期間が20年延長されますが、承諾がないときは期間は従前のままであるだけでなく、承諾がないのに建替え強行したときは、設定者は借地契約解約できるとされています。そのため、更新後に建替えを設定者が承諾しないときは、裁判所へ承諾に代わる許可を求めることができます。

Q7 抵当権設定承諾書

借地人から、建物の建替えにあたり住宅ローンを組むため、銀行あての「抵当権設定承諾書」に署名押印してほしいとの申出がありました。これは、どういうものですか? 署名押印しても問題ないですか?

A 建物の建築資金を住宅ローンで賄う場合、銀行は、通常新築する建物に抵当権の設定を求めます。借地上の建物に抵当権が設定されると、その敷地の借地権にも抵当権の効力が及びます。銀行としては、借地権がなければ砂上の楼閣になり担保価値はゼロになるので、借地権が本当に存在しているか、将来的にも大丈夫か確認する必要があります。そこで、各金融機関によってバリエーションがあるのですが、①借地権があることを確認する、②①に加え、建物に抵当権を設定することを承諾する、③②に加え、借地人に賃料不払いがあるときは金融機関に通知する、④③に加え、借地契約を解除するときは銀行へ通知する(承諾を得る)といった内容の承諾書を地主さんに求めることがあります。①、②のタイプですと、何の不利益もありませんが、③、④のタイプの承諾書を差し入れると、地代の不払いを理由に借地契約を解除しようとするとき、銀行へ通知をしないで、あるいは承諾を得ずに解除したら、銀行に対して損害賠償をしなければならなくなる可能性がありますので、注意してください。

Q8 定期借地権

定期借地権とは、どういうものですか?

A 定期借地権とは、更新のない借地権で、一般の定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用借地権の3種があります。更新がないので、期間満了時には、確実の土地の返還を受けることができます。
 ここでは、一般の定期借地権を説明します。一般の定期借地権とするには、①借地期間を50年以上とすること、②(1)更新がないこと、(2)建物の再築(建替え)による期間の延長がないこと、(3)建物買取請求をしないことを、書面で特約することが必要です。
 期間が満了すれば、借地権が消滅し、借地権者は建物を収去して土地を明け渡さなければなりません。

Q9 事業用借地権

事業用借地権とはどのようなものですか?

A ①事業用の建物を所有する目的で、②存続期間を10年以上20年以下とし、③公正証書で借地権を設定すれば、更新がなく(すなわち期間満了で消滅する)、かつ建物買取請求権のない借地権とすることができます。
 ただし、賃貸用マンション・アパートのための借地には認められません。

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借 家

Q10 家賃保証(一括借上げ)

建築会社Aから「一括借り上げをして、賃料も向こう30年間∗円とすることを保証するので、アパートを建てないか」と勧誘されました。本当に向こう30年間その金額が保証されるのでしょうか?

A このような約束があっても、できあがったアパートの一括借上げ契約は建物の賃貸借契約にほかなりませんので、借地借家法の適用があります。したがって、地価や公租公課、近隣の家賃水準が低下したときには、賃借人であるAから賃料の減額請求ができます。すなわち、「保証」はされない結果になります。
 ただし、定期借家権(Q16)で賃料の改定に関する特約がある場合には増減額請求権(Q11)はないとされており、「変更しない」というのも賃料改定の特約にあたるので、その場合は「保証」されることになります。

Q11 賃料増減額請求権

テナントビルのオーナーです。賃料が近隣の相場に照らして安くなってきました。テナントに増額をお願いしても聞き入れてもらえません。どうしたらいいでしょうか?
 逆に、テナントのほうから減額を請求されたらどうなりますか?

A 賃料の増減額請求という制度があります。

» 増額請求
 賃料が不相当に安くなった場合は、賃貸人は賃料の増額を請求することができます。増額請求をすると、賃貸人は、自己が妥当と考える賃料を請求できます。これに対して賃借人は、とりあえずは自己が妥当だと考える金額を支払っておけばよく(従前の賃料より低い金額ではダメです。従前より安いと考えるときは、後述の減額請求をします)、最終的に確定した金額との差額を清算します。差額には年1割の利息を付ける必要があります(もっとも、話合いでまとまるときは利息は付けないこともあります)。
 金額の決定は、まずは当事者間で話し合いをしますが、まとまらなければ調停を起こし、調停もまとまらなければ最終的には裁判で決着をつけます。金額を決める要素は、土地・建物の価格の変動、公租公課の変動、その他の経済事情、近隣の賃料の相場などです。
 これらの要素の変動は、前回の賃料の改訂時からの変動を見ます。「地価が急騰したときに上げなかったから、今上げてくれ」いう請求は取り上げられません。

» 減額請求
 逆に、上記の要素が下がっているときは、賃借人は減額請求できます。この場合、賃貸人は自己が妥当と考える金額(従前の金額以下でなければなりません)を請求でき、賃借人は賃貸人から請求された金額を払わなければなりません。最初に減額請求した金額を払っていたら、契約を解除されます。
 金額の決め方、金額を決める要素、差額の清算と利息は増額請求と同様です。

Q12 自働改訂条項

「賃料は3年ごとに自動的に10%増額する」という特約は有効ですか?

A 有効ですが、賃借人は減額請求をすることができます。
 このような特約も、通常の借家関係では賃料減額請求権を排除することができませんから、自動的に増額されても、賃借人から減額請求されて、もと水準あるいはそれ以下に下がることがあり得ます。
 減額請求された場合、いくら減額するのが妥当かという判断の基準になる賃料は、自働改訂された金額ではなく、もっとも最近に賃貸人・賃借人の合意で決めた金額が基準になり、その時点から現在までの地価等の変動率を見ます。
 なお、定期借家権の場合であれば、自働改定の特約がある場合は、賃料増減額請求はみとめられません。

Q13 更新料

賃貸マンションの家主です。賃貸契約の更新にあたり、更新料を請求できますか?

A 更新前の契約に、①「更新の際は、更新料として新家賃の○か月分を支払う。」と約定している場合、②更新時に賃借人との間で「更新料○○円を支払う。」と約束した場合には、請求できます。当然には、請求できません。

Q14 クリーニング代

アパートの家主です。退去した賃借人に室内のクリーニング代を請求できますか?

A ①通常に使用していて汚損する程度を越えた汚れについては、クリーニング代(実費)を請求できます。
 また、②賃貸借契約で、「退去時にはクリーニング代として∗円を支払う。」と金額をはっきり約定している場合は、その金額−不当に高額な金額でない限り−を請求できます。単に、「クリーニング代を支払う。」と約定しているだけでは請求できません。
 その他、壁紙や建具の汚損も、①通常の汚損を超えるものはその補修費(実費)を請求できます。②それ以外は、契約書で「何々の補修費として∗円を支払う」と明確に約定していて、賃借人がいくら支出することになるのかはっきり分かる場合には、その金額を請求できます(単に「退去時の壁紙の張替は賃借人の負担とする」という約定では、賃借人にとっていくら払わなければならないか計算できないため、無効とされます)。

Q15 敷金・保証金の一部償却(敷引き特約)

テナントビルのオーナーです。「敷金のうち∗月分を償却する」とか「保証金のうち∗円を償却する」という特約は、有効ですか?

A 償却される金額がいくらになるか、はっきり分かる約定であれば、有効です。

Q16 定期借家権

定期借家とはどのような制度ですか?

A 期間満了により必ず終了する借家契約です。
 通常の借家契約は法定更新の制度があり、賃貸人が更新を拒絶するには「正当事由」(Q2)が必要です。「正当事由」はなかなか認められないため、賃借人ほうから更新をしないこととする、あるいは解約をしない限り、家主は、事実上返還を受けることができない状態になっています。
 これに対し、定期借家では必ず契約が終了し、明渡しを求めることが可能なので、家主にとっては、大きなメリットがあります。
 定期借家にするには、①「定期借家」であること、すなわち確定期限をもって契約が終了すること及び更新のないこと、を約定すること、②書面で契約すること,③賃貸人は、契約をする前に、①の内容を記載した書面を賃借人に交付して説明すること、が必要です。また、賃貸期間が1年以上の場合は、期間満了の1年前から6か月前までに「期間が満了して契約が終了すること」を賃借人へ通知しなければなりません。
 通常の借家契約を定期借家に切り替えることはできません。
 なお、定期借家権では、賃料の改定に関する特約がある場合には、その特約が優先し、賃料増減額請求は認められないこととされています。(Q10へ戻る)

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