遺言Q&A[改正法対応]
遺言Q&A一覧[改正法対応]
Q1 遺言をしたほうがよいか?
Q2 遺言で何ができるか?
Q3 遺言の仕方には、どのようなものがあるか?
Q4 自筆証書遺言の作り方は?
Q5 自筆証書遺言のメリット・デメリットは?
Q6 自筆証書遺言は封印しなければならないか?
Q7 自筆証書遺言保管制度とは?
Q8 公正証書遺言の作り方は?
Q9 公正証書遺言のメリット・デメリットは?
Q10 ビデオ遺言は?
Q11 成年後見が始まったら遺言することができないか?
Q12 代理で遺言できるか?
Q13 夫婦が1通の遺言書で遺言することができるか?
Q14 相続分の指定とは?
Q15 遺産分割方法の指定とは?
Q16 『特定財産承継遺言』(『相続させる遺言』とは?
Q17 遺贈とは?
Q18 受遺者が先に死んだら?
Q19 『跡継ぎ遺贈』とは?
Q20 長男に全財産を相続させる代わりに、妻の介護をさせたいが・・・
Q21 ペットに遺贈することができるか?
Q22 自筆証書遺言が見つかった。どうすればよいか?
Q23 遺言をしたかどうか知りたい。
Q24 検認とは?
Q25 遺言執行とは?
Q26 遺言執行者とは?
Q27 相続登記等はどうするか?
Q28 遺言により取得した預金の払戻はどうするか?
遺言とは
A 遺言で何がしたいか、ということが大事です。
遺言をしたほうがよいか、しないほうがよいかは一概に言えません。法律の規定とは異なる遺産の分け方をしたい、相続人ではない人に遺産を与えたいなど、積極的な目的を持つときは遺言をする必要があります。『特定財産承継遺言(Q16)』(いわゆる『相続させる遺言』)をすれば遺産分割協議をする必要がないので遺産をめぐる争いをなくすことができると言われますが、逆に遺言が相続争いを誘発する可能性もあります。
要は、遺言で何ができるのかを理解したうえで、遺言で何を決めたいのか、積極的な意向がある場合には、遺言をすることが大事です。遺言は「書く」もので、「書かされる」ものではありません。
A 遺言で決めることができることのうち、主なものは次の事項です。
③ 遺贈(Q17)
④ 遺言執行者の指定
⑤ 廃除、廃除の取消し
⑥ 認知
⑦ 祭祀主宰者の指定
なお、法律で定められた以外のことを書いたら遺言が無効になるわけではありません(例えば、「きょうだい仲良く、孝養を尽くせ。」という内容は、遺言者の意思として尊重されることが期待されますが、この内容を法律上強制することはできません。その意味で法律上の効力はないのですが、これにより他の条項が無効になったり遺言自体が無効になるわけではありません)。
遺言書の作り方
A 通常の遺言の仕方としては、①自筆証書遺言(Q4)、②秘密証書遺言、③公正証書遺言(Q8)があり、①自筆証書遺言か③公正証書遺言が一般的です。
そのほか、伝染病で隔離されている場合や、死期が迫っている場合、遭難船に乗っている場合のように特殊な場合には特別な遺言の仕方があります。
A 全文を自筆で書き、日付を入れて、署名・押印します。必ず、全部自分で手書きする必要があります。
なお、遺産目録の部分は手書きでなくてもかまいません(パソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書を添付することでもよい)。ただし、手書きでない目録は各ページに署名・押印しなければなりません。
A メリットとしては、①いつでも、どこでも簡単に作ることができる、②費用がかからない、③秘密にすることができる、という点です。
デメリットとしては、①専門家が関与していないと内容が不明であったり無効な内容になってしまう危険がある、②見つけてもらえなかったり、改ざん・変造の危険がある、という点です。(ただし、後述の自筆証書遺言保管制度(Q7)を利用すれば、②の点の心配はなくなります)。
A 法津上は封筒に入れたり、封印することは要求されていません。もっとも、安全のためには封印しておくほうがよいでしょう(後述の自筆証書遺言保管制度を利用するには開封のままでなければなりません)。
A 自筆証書遺言を法務局で保管する制度です。
保管してもらえる遺言は、法務省令で定める様式で作成する必要があり、封をしない状態で法務局に預けます。
保管を引き受ける法務局は指定された法務局に限られ、そのうち住所地・本籍地・遺言者が所有する不動産所在地のいずれかを管轄する法務局に保管を依頼します。遺言者は法務局に出頭する必要があり、本人確認がなされます。
相続人は、遺言者の死亡後、保管の有無の照会、遺言の写しの交付や閲覧を求めることができ、相続人のうちの一人に写しの交付・閲覧がなされたら、他の相続人に遺言が保管されていることが通知されます。また、遺言者があらかじめ指定した相続人には、
法務局が遺言者の死亡を確認したときは写しの交付・閲覧がなされなくても通知がなされます。
なお、法務局に保管されていた自筆証書遺言については、検認(Q24)の手続は必要ありません。
A 公証人に作成を依頼します。遺言者が2人以上の証人の立会のもので、公証人の面前で遺言内容を告げ、公証人が公正証書にします。耳が不自由な人や話すことができない人は、手話通訳や筆談によることもできます。
A メリットとしては、①内容的な誤りや形式的な誤りを生じる恐れがない、②改ざん・変造の危険がない、③公正証書遺言の有無を公証役場に問合せることができる(遺言者の死亡後)、という点です。
デメリットとしては、①費用がかかる、②「いつでも、どこでも」というわけにはいかない、③証人から遺言したことや遺言の内容が漏れる危険がある、という点です。
メリット | デメリット | 検認 | ||
公正証書遺言 | ①内容的な誤りや形式的な誤りを生じる恐れがない ②改ざん・変造の危険がない ③発見が可能(相続開始後に公証役場へ問い合わせ) |
①費用がかかる ②「いつでも、どこでも」というわけにはいかない ③証人から遺言をしたことや遺言の内容が漏れる危険がある |
不要 | |
自筆証書遺言 | ①いつでも、どこでも簡単に作ることができる ②費用がかからない ③秘密にすることができる |
①専門家の関与がないと、内容が不明であったり無効な内容になる危険がある ②改ざん・変造の危険 ③発見されないおそれ |
要 | |
自筆証書遺言保管制度 | ①基本的に、上記の自筆証書遺言のメリットがある(ただし、保管のために若干の費用がかかる) ②改ざん・変造の危険はない ③発見が可能(相続開始後に法務局に問い合わせ) |
①内容の不備・不完全はチエックされない(自筆、日付等の形式面はチェックされる) ②遺言者が法務局へ出向く必要がある(出向くことができなければ保管制度は利用できない) ③遺言書用紙に制約がある(A4、余白等) |
不要 |
A ビデオやその他の機器を使って録画や録音したものは、法律上は、「遺言」とは認められません。
A 成年が始まった人(成年被後見人)も、判断能力が一時的に回復して、遺言のなんたるかを理解できる状態であれば、医師2人以上の立会(上記の理解力がある旨を遺言書に付記する)で、遺言をすることができます。
A 代理で遺言することはできません。
A 2人以上の人が1通の遺言書で遺言すること(共同遺言)はできません。共同遺言は無効です。
遺言の内容
A 民法では相続分(→相続Q&A)が決められていますが、自分の遺産について、遺言で民法の定めとは違う割合に決めることができます。
例えば、民法では相続人が配偶者と子の場合は相続分は2分の1ずつとしていますが、『妻(夫)の相続分を4分の3と指定する。』と遺言すれば、そのように変更されます。
A 遺産は相続分にしたがって分割する必要があります。分割は相続人間の協議か調停・審判によります(→相続Q&A)。この分割の方法を遺言で指定することができ、分割方法の指定があるときは、その指定に従わなければなりません。例えば、『自宅の土地・建物は妻(夫)が取得するよう分割すること。』という遺言がこれにあたります。
A 『特定財産承継遺言』とは、従来『相続させる遺言』と呼ばれていたもので、特定の相続人に対して特定の遺産を取得させる内容の遺言です。例えば、『不動産はすべて長男に、○○の株式はすべて長女に相続させる。』というものです。相続分の指定では、その指定に従って遺産分割をする必要がありますが、『相続させる遺言』は、遺産分割の手続を経る必要がなく、直接に遺産が指定された相続人のものになります。
A 遺言で、遺産を分け与えることです。これにより、相続人ではない人にも遺産を承継させることができます。遺贈には特定の財産(例えば『○○の土地』)を遺贈する場合(特定遺贈)と、遺産に対する一定割合(*)を遺贈する場合(包括遺贈)があります。包括遺贈では遺贈を受けた人(受遺者)は相続人と同一の権利義務を有するので、相続人とともに遺産分割協議をしなければなりませんし、負債も承継します。
(*)遺産全部を遺贈することもできます(全部包括遺贈)。この場合は、遺産分割協議の必要はありません。
A 遺言した人より受遺者(財産をもらう人)のほうが先に死んだら、その遺贈は効力を生じません(ないものと扱われる)。受遺者の相続人のものになるわけではありません。
なお、遺贈に順位をつけることはできるので、『甲不動産はAに遺贈する。相続開始時にAが死亡しているときは、Bに遺贈する。』としておけば、Aが死亡したときにはBが受遺者になります。
A 『跡継ぎ遺贈』とは、『甲不動産はAに遺贈する。Aが承継した後にAが死亡したときはBに遺贈する。』という遺言(*)ですが、このような遺言は無効だと考えられています。
(*)一旦、Aに承継された後の行き先まで決めようとするもので、遺贈に順位をつけるQ18の場合とは異なります。
Q20 長男に全財産を相続させる代わりに、妻の介護をさせたいが・・・
A 遺贈する代わりに一定の負担を義務づけることはできます。ただし、受遺者は遺贈された財産の価額を超えない限度において責任を負います。もっとも、「介護をする。」という負担はどの程度のことをすればその義務を果たしたのかはっきりせず、もめ事のタネになるので、このような遺言は勧めません。
A ペットに遺贈することはできません。動物は財産を持つ主体にはなれないからです。
遺言の執行
A 家庭裁判所で『検認(Q24)』という手続を受ける必要があります。封印されている遺言書は家庭裁判所で開封しなければなりません。勝手に開封すると過料という罰を受けます(法務局に保管した自筆証書遺言の検認は不要です)。
A 公正証書遺言については、被相続人の死亡後であれば、相続人は公証役場に公正証書遺言が作成されているか問合せをすることができます。どこの公証役場でも構いません。作成されていれば、作成した公証役場で遺言書の写し(謄本)をもらうことができます(費用は負担)。
自筆証書遺言については、法務局に保管していれば、相続人は、遺言者の死亡後、保管の有無の照会、遺言の写しの交付や閲覧を求めることができます。なお、相続人のうちの一人につき写しの交付・閲覧がなれたら、法務局から他の相続人に遺言が保管されていることが通知されます。遺言者があらかじめ指定した相続人には閲覧等がなくても通知されます。
A 遺言書の状態を確認し、以後の変造等を防ぐための手続です。これによって、遺言の有効・無効が決まるわけではありません。検認は、遺言書の保管者に申立てにより家庭裁判所が行います(保管者が速やかに検認の申立てをしなかったり、検認を経ずに遺言の執行をすると「過料」に処せられます)。
公正証書遺言、法務局に保管された自筆証書遺言は、検認手続は不要です。
A 遺言の内容を実現することをいいます。例えば、遺言書により遺産を取得した人に権利を移転する手続や、引渡し・登記などを行うことです。
A 遺言の執行を担当する人です。遺言の執行に必ず必要とするわけではありませんが、遺言内容の実現に相続人の協力が期待できない場合には、執行者がいるほうがスムーズにいくでしょう。相続人による妨害を排除するのは執行者の方が適任です。
遺言執行者は、①遺言での指定、②家庭裁判所の選任(利害関係人の申立による)により選ばれます。
なお、遺言執行者がある場合は、遺贈の履行は遺言執行者だけができます(相続人はタッチできない)。
A 『特定財産承継遺言』の場合(相続登記)は、当該財産をもらった相続人(受益相続人)が単独で登記申請をすることができます(遺言執行者がいる場合は、遺言執行者も単独で登記申請することができます)。
遺贈の場合(遺贈の登記)は、相続人全員(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)と受遺者との共同申請によります。相続人が登記に協力してくれるとは限らないので、遺贈する場合は遺言で遺言執行者を定めておくのがベターです。遺言で定められていない場合で相続人が協力してくれないときは、受遺者は家庭裁判所に執行者の選任を求めるのがよいでしょう(*)。なお、受遺者が相続人であるときは、単独で登記申請ができます。
(*)遺言執行者の選任を求めない場合は、受遺者は相続人を相手取り登記を求める裁判を起こすほかありません。
A 『特定財産承継遺言』により預金を取得した場合、受益相続人がその取得を銀行等へ主張するには、取得したことを銀行に通知するか、銀行が承諾しなければなりません。通知は、遺言執行者からするか(相続人全員からでもよいが、実際上は期待できないでしょう)、受益相続人が遺言の内容を示して通知します。払戻は、受益相続人でも遺言執行者でもできます。
遺贈の場合も、上記の通知または承諾が必要ですが、通知は遺言執行者か相続人全員からする必要があり、受遺者から通知することはできません(銀行が承諾すればよいが)。払戻は受遺者がするのが原則で、遺言執行者は遺言で払戻権限が与えられている場合に限りできます。